7/12
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「俺はラー……いや、宿屋でその話を耳にしましたが、本当にいるとは思わず、一体何者なんでしょうか?」 幻想的で神秘的なシェへラザードの佇まいと声がモルテザの強張りを解いていく。 「本当にいるのか、と問われると……誰も見た者はいないのです。ただ、時の勇者達が何度も挑んだようです。森の奥に隠された秘密、いえ、美しい姫を求めてなのか」 潜めた蛾眉が憂愁で陰り、妖艶な美しさがモルテザを惑わせる。 「余の代になってからも森に勇者を行かせたことがあるが戻って来た者はいない。あの森には民も入るが、そうした並みの者達は迷っても戻ってこられるのだ。どうやら秘密を知ろうと挑む者だけが呑み込まれてしまうらしい」 ここでシャフリヤール王が話しを補った。 「俺に行け、と? 正しいこととは? 美姫は魔物に囚われているから救えということですか? なぜ彼女が森で眠り続けるのか、それを突き止めるのが正しいことなのですか?」 疑問しか沸いてこない。目的が定まらなければ達成しようがないのだから。 「ただ、呼ぶのです。助けを求めるように」 シェへラザードの瞳の焦点がモルテザを越え、雲のように遠くへと流れた。しまいには、この世でさえなく、あの世にある者と繋がっているような様子に変わった。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!