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……シン兄が。 プライベートなことでこんなにも声を荒げたのを見たのは、きっとこれが初めてだ。
モモ姉が指摘したお母さんの心情は間違っていないだろうし、シン兄も苦渋の思いでそこは受け止めていたんだと思う。
寂しくて悲しかっただろうその当時の気持ちを押し殺して、お母さんの事情をちゃんと理解はしていたんだ。
だけど、息子が母親にそっぽを向かれて傷付いたその思いよりも。 母親が父親を裏切っていた……シン兄だけでなく、父親を見捨てたことが許せないんだ。 きっとシン兄にとっては、家族三人の思い出をお母さんが放棄したように感じられるのだろう。
それでも、無敵と称した姉貴分はやはり無敵だったのだ。
「……そんなの……シンラの思い込みかもしれないじゃない」
「……んだと?」
「お母さんのことなんて、これっぽっちも考えてないんでしょ?」
「は! 知るかよ、旦那や息子より、近くの手頃な男とよろしくやってる奴なんて……!」
「やめてよ! そんなはずないでしょ……! どうしてお母さんのこと、そんなに信じてあげられないのよ……?」
モモ姉いわく、お母さんは平気なはずないだろう、と。 仮に他の男性と結ばれていたとしても、愛する息子を一人ほったらかして平気な訳がない。 それが全然平気な人だとしたら、シンラはしんどい時に思い浮かべてしまうようなことはないだろう、と。 この姉貴分、そうやって更にシン兄にぶちかましてきたのだ。
「きっとお母さん、いっぱいいっぱい苦しんで、寂しがってるはずなのに……仮に新しい家族と上手くいってたとしても。
どうしてそこを分かってあげないの、ほったらかしになんかしておけるの……?」
「…………〜〜〜〜っ」
……シン兄が絶句してしまっているそんな瞬間に、俺は耳元で囁かれた。
「さすがパートナーですねぇ。 深いところにズバッと歯に衣着せぬ物言いが出来るとか」
「(はぅあぁっ!)」
必死で声を押し殺した俺を褒めて欲しい。
まさか俺の背後に件のウキョウさんがいつの間にか佇んでいるだなんて夢にも思わなかった。
「い、いつからいらしたんですか……っ」
「えーと。 『お前。 羨ましいんだろ』の辺りからですかね」
……いやそれ、俺が屋上についてすぐじゃないか……。 あぁあ、俺一応戦師なのに。 簡単に背後を取られていただなんて、自信喪失だ。 シン兄が視野に入るだろう位置にいる俺に気がついてないように、俺もすぐ後ろのウキョウさんに気がついていなかった。
「すみません……」
「いえいえ、私に謝られましても。 ご自身でますます精進なさってください?」
んん? でもなんでウキョウさんはシン兄とモモ姉が屋上で言い合ってることを知っているんだ……?
数秒考えて察する。 ……俺が。 説明したんじゃないか、ダイ兄に。 きっとその時から密かに聞かれてたんだ。 か、壁に耳あり障子に目あり、ウェスター城にウキョウあり……怖!
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