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「……っ……!!」
シン兄は顔を真っ赤にして横を向いた。 うわあぁ……モモ姉、ダイレクトアタックすぎる……俺、聞いちゃって良かったのかなぁ。 良くはないだろうけど聞いてしまった。 シン兄からしたらなんとも公開処刑じゃないか。 高熱時の寝起きの言葉を盾にとって責めるのはやめてあげて……!
「あんなしんどそうな時によ? そんなにもお母さんのことを嫌ってるんだったら。 そこででてくるはずないでしょう……?」
うぅん、一理ある。 モモ姉がお母さんからの手紙を嘘にしようと思ったことにも頷ける。 シン兄はお母さんのことを大切に想ってるんだ、と考えた結果の行動だった訳だ。
シン兄が本当にしんどそうに床に伏せてたのは一日だけで、すぐに熱も引いた。 同僚がイーステンに出向になってしまったりして、俺もあの当時のことは印象が強いからよく覚えている。
「シンラ本当は分かってるんでしょ。
お父さんが亡くなってた時、お母さんがそのことをシンラに告げてきてたら……今頃シンラ、村に帰ってここにはいなかったかもしれない。 村には帰らなかったとしても、少なくともお母さんのことが気になって、修行どころじゃなくなったんじゃないの?
お母さん……シンラの『戦師になる』ってな夢のために、一人で身を引いたんじゃない!」
モモ姉が一気にまくし立てた。 そうか……モモ姉は城の皆とは違ったそういう見方、物の考え方をしていたんだ。
女性的というか、母親の視線というのか。 俺にはそういったことは思い及ばなかった。
黙ってしまっているシン兄に対して、モモ姉が続けて言う。
「……今からだって遅くないでしょ。 だから……」
「だから?! なんだってんだ……!」
シン兄が顔をあげて、モモ姉を凝視した。 こんな兄貴分の顔は見たことがないかもしれない……なんとも余裕がない顔をしていた。
「遅くないからなんだってんだよ。 俺や父さんほっといて、どこぞの男といい思いしてる奴なんか知らねえよ! 何を今更……!」
「嘘! 絶対嘘!
いいかげん素直になりなさいよ、この唐変木!」
「……あぁ……ああ、分かってら! っつっても、分かったのなんてだいぶ後になってからだけどな!
分かってるよ、あの人が。 俺の夢を理由にして連絡をよこさなかったんだろうってことくらい。
でもそれを分かったとしたって、どうしようもねえだろ! あの人が……父さんを裏切ったってことは、嘘偽りのない事実なんだから!!」
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