理解と涙と

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涼しい顔をしたウキョウさんは、後ろの非常口のほうに目をやって飄々と言った。 「もうじきに王も見えられるでしょう。 なんでも『シンラから預かり物がある』とか言ってらしたので」 俺がモモ姉を追いかけた後に、ウキョウさんとダイ兄の間ではそんな話が交わされていたらしい。 シン兄はダイ兄に何かを預けていた、ということなのだろうけど。 それがとにかく緊迫しまくったこの状況をなんとかしてくれるのだろうか。 俺がここに来た時のまま、開いたままの非常口からダイ兄がやって来たのはそれから一分以内。 「あーもう……あんまり突っ込んでやるな、モモ」 そう言いながらダイ兄は睨み合っている二人の間に歩み寄った。 手には紙袋を三つ、携えていた。 「ダイ……って、ウーさんまで?! いつの間にいらしてたんですか!」 シン兄が俺の名前を飛ばしたということは、俺がいることは知っていたのかもしれない。 つくづく俺ってば気配はダダ漏れだし、相手の気配は感じられてないし……反省点が多すぎてへこみそうだ。 「ほれ! お前から預かってたブツ、返すぞ」 「……このタイミングで、かよ……」 「はっはー、我ながらナイスタイミング! だろ」 ダイ兄は不敵に笑いながら、シン兄の目の前に紙袋を突き出した。 首を傾げたモモ姉がそれ何? と言わんばかりに覗き込もうとすると、ダイ兄が先にモモ姉に教えてやった。 「シンラが今まで家に宛てて出した手紙とな、家から貰ってた手紙。 こいつが『極意』取得のために城から旅だった時にさ。 こいつ、今まで家とやり取りしてた手紙を全部、親父に預けたんだよ。 出した分も貰った分も」 シン兄は家のことを家族のことを過去に押しやるために、手紙を普段は目が届かない場所に封じたんだ。 ……そうか、封じたとしても。 手紙自体を捨ててしまうことは出来なかったんだね。 その微妙な心境を察して、俺も胸が痛くなった。 相変わらず苦い表情のシン兄に、ダイ兄は少し諌めるようなそんな口調で声を掛けた。 「……お前、知らねえんじゃね? この紙袋の中に入ってたもの……手紙だけじゃねえんだぞ」 「え……」 シン兄が今日一驚いた顔をした。 トラウマの原因に、シン兄自身が知らなかったことがある、ということに驚愕したのだろう。
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