だっせぇ俺

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だっせぇ俺

 青い空。  白い雲。  駆けていく子ども。  目の前を通り過ぎるシャボン玉。  淡い桜が咲き誇る今日。  『幸せ』を絵にかいたような場所で、俺は芝生に寝転がって呆けていた。  …………なんだよ。  疲れたサラリーマンだって、桜ぐらい見てもいいじゃないか。どうせこの後帰社したら、また上司に嫌味言われるんだ。少しぐらい魂飛ばして、ぼうっとしたっていいだろう?  なんて、心の中で言い訳をしながら、眺める世界には、抜けるような青と淡いピンク。穏やかな風に揺れてはらはらと散る花びらに、蘇るのは昔の思い出だ。  そう言えば昔、母ちゃんと一緒に、こうして寝転んで花見したことがあったっけ。おやじが酒のんで潰れて、呆れた母ちゃんと一緒に何か話してた。  幼い俺は、桜を見て「あれ、わたあめみたい!」って食い意地の張ったことばっかり言ってた気がする。  蘇る声と、母ちゃんの笑い声。  少し冷たい風が吹き抜けて、音もなく花びらが舞った。  ひらり、はらり。  (くう)を泳ぐその様に、なんとなく、俺は口を開けていた。  「なんで口を開けたんだ」って?  甘くてうまそうだ、と思ったんだよ。  桜の花びらが、優しく俺を癒してくれそうだって。  薄くスライスしたチョコレートみたいに、ひらひら儚く揺れ落ちるさまに、「バカげてるなあ」と思いながら開いた口の中。しっとりとした花びらが舞い込んで、途端、なぜか、涙があふれた。  甘さなんて感じない。  そんな夢みたいなことはない。  だけど、偶然入ったそれと、今もなお目の前で散っていく桜が、俺に『頑張れよ』って言ってくれたような気がしたんだ。
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