咲く乱、花魁花見道中

4/4
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 そして花見の花魁道中。お鶴とお雪の花代勝負はなんと五分と五分の引き分け。お鶴とお雪は二人横並びで花魁道中を歩くことになった。主は頭を抱えている。 「いいか、二人とも喧嘩だけはするなよ。お客が大枚をはたいて着物や帯を買い与えたんだ。この花見の花魁道中で大金が動く」 主はピリピリして、二人に小言を言う。そんな主を尻目にお鶴とお雪は、足並みを揃える練習をしている。並んで歩くのにどの着物とどの帯にするか。色や柄が重ならないように真剣に相談して。ポックリで歩く歩幅や扇子の振り方を揃える二人はまるで舞の稽古をしてるよう。喧嘩もせず、大真面目。二人の大喧嘩を心配していた主は拍子抜け。遣り手の婆さんは主に囁く。 「これが正真正銘の花魁ですねぇ。二人とも芸事には熱心。まるで二人静を見てるよう」 主も遣り手に囁き返す。 「いつもこうやって協力してくれればなぁ」 遣り手と主はふふふと忍び笑いをしていた。 外界から斬ってきた桜の木を通りに並べて、桜吹雪の花魁道中。お鶴は紅色の着物に金の帯、お雪は海のような蒼い色の着物に銀の帯。二人の息の合った歩み、扇子捌き、首のかしげ方は、後世の吉原にまで「二人静のお鶴とお雪の舞」として語り継がれた。息を飲むほど美しく、息を飲むと桜の甘い香りと花魁達の白粉の香りで妖しく狂いそうに酔う。  鮮やかな花魁の着物と、淡い桜。吉原の花見はなまめかしい潤いに満ちた華やかさ。さあ、よってらっしゃいよ、旦那さん。ここは極楽の入り口かはたまた地獄の入り口か。男にとっては極楽だろうよ。女にとっては地獄でも。この世の地獄で花魁は踊るのさ、天女のようにね。天女の顔をした銭の鬼、それが花魁さ。旦那の銭はスッテンテン。  あの花見の花魁道中のお鶴とお雪は本当に綺麗だったよ、私にゃ負けるけどね。私って誰だって?遣り手の婆さんだよ。私にもお鶴とお雪みたいな頃があったのさ。女の若さは桜の花と同じさ。散れば男は見向きもしない、若い女に男は惹かれる、残酷なこの世の摂理さね。 (了)
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!