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序~再会~
10年前の春。
その日、"私"はワインと酒のつまみの材料を片手に、O線S駅に降り立った。
と、言うのも高校時代の友人である"D"が、実家である茨城県から東京へ転職のため引っ越してきたのだ。
同じ線沿いに、嘗て同じ学び舎で仲良く過ごした友人が越してきた。
そんな出来事に心が弾まないわけがない。
向かう電車の中、青空を眺め思い出が蘇る。
空の教室で先生の目を盗んでカードゲームに興じたこと。
互いに苦手な科目を教え合い、結局テストがボロボロだったこと。
受験祈願のため、寒い体を震わせながら一緒に神社に行ったこと。
そんな過去の日々に口元が微かにほほ笑む。
駅に着いて12時を10分少し過ぎる頃。
改札前に、Dと再会した。
少し小柄な体躯、真っ直ぐでさっぱりとした黒髪、細く切れ長の目に高い鼻。
筋肉付きの良いシルエットと浅黒い肌は、野外スポーツをしていたことを如実に表している。
ずっと連絡はとっていたものの、実際に何年ぶりにも会ってみると心が弾むものだ。
「久しぶり。卒業式以来だから7年ぶり位か。
だいぶ瘦せたんじゃないか?
人間体が資本、きちんと体を鍛えておかないと直ぐに倒れるぜ」
そう言いながら力こぶを作る。
「僕は生憎キミのように、スポーツや筋トレに取り立てて興味のある人間ではなくてね。
いつも大縄で1人引っかかったり、バスケットボールを顔面で受け止める運動音痴だから」
「お前、高校の卒業式でも同じこと言ってたぞ。
この数年間で全く何も変わっていないな?」
「変わってない?変わったさ」
「何が?」
「体が経年劣化した」
2人ふふっと笑う。
「それはお互い様。なんにせよ、先ずは飯にでもしよう」
笑顔で明るく話すDの姿に、高校の頃の姿を重ねる。
あれから年月が経ったのだと感じる。
「家に行く途中旨いラーメン屋があるんだ。マジでオススメなんだよ」
こんなにもワクワクとしているのは、互いに昔のようなやり取りが出来て郷愁と歓喜で胸中を膨らんでいるからだろう。
それを体で表現するかの如く、私もDもどこか足取りは軽くて空気が穏やかである。
『喜怒哀楽が、ハッキリしている故非常に付き合いやすい』
それは出会った頃から感じている。
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