三夜目 どこにもない家

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 記憶……これは「記憶」なのでしょうか?  私は生まれてから今まで、こんな景色の場所に住んでいたことはありません。時々遊びに行った親戚の家とも違います。真っ赤に塗られた電車には乗ったことがないはずです。  そして何より、私の頭に浮かぶのは「窓から外を見ている」場面だけ。他にこの家にどんな場所があったのか、外から見たこの家はどんな様子なのかは、何一つとして出てきません。  もちろん小さな頃の記憶なので、曖昧になっていることもあるかもしれません。けれど、私は何となくこれは現実のものではないんじゃないか、幻なんじゃないかと考えているのです。  というのも、この風景にはもう1人登場人物がいます。私の妹です。  念のために言っておくと、妹自体は幻の存在ではありません。お互いに大きくなっていく中で、私は彼女と多くの時間を過ごしました。間違いなく実在する人間です。いや……「実在した」人間と言った方が正確かもしれません。もう、いなくなってしまいましたから。
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