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西 令草ができ上がるまで
北国の港町に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさん達の家は町外れの寂しい浜辺の近くにポツンと立っていました。
おじいさんは元漁師でした。夫婦仲はとても良いけれど子どもに恵まれず、跡継ぎもいないため、今は漁師をやめて年金暮らしです。
ある寒い冬の朝、ギュギュ〜と唸る流氷の音で目を覚ましたおじいさんは、流氷を見に浜辺に出かけました。
誰もいない寂しい浜辺に打ち上げられた流氷は朝陽にキラキラ輝いて宝石のようです。
その煌めく流氷の中に、一つだけ青白く不透明な流氷がありました。
おじいさんは不思議に思い、その青白い流氷を家に持って帰りました。
おばあさんは、それを見て喜びました。
「何と素敵な流氷でしょう!」
ところが北国の冬の家の中は、ポカポカと暖かいストーブが燃えているものですから、流氷は、みるみる溶け始めました。
溶けた流氷の中に草の塊みたいなものが入っていました。
おじいさんが、その草の塊を浴室に運び、きれいに洗ってやろうと、水を掛けながら絡まっている草を解きほぐしていると、その中に小さな人間の赤ん坊が入っていました。
モジャモジャに絡まっていた草は、その赤ん坊の髪のように赤ん坊の頭から生えているのでした。
「これは何という生き物だろう」
おじいさんは、赤ん坊を抱いて、おばあさんに見せました。
「まあ、不思議。おじいさん、この子はかぐや姫のように、お月様か遠い星から舞い降りた天使かもしれません。私達で大切にお育て致しましょう!」
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