第一巻 運命の婚礼 第一章 楼桑からの使者 1

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   子どもの頃からの習慣で、ブルースはいまだにラフレシアが苦手であった。  その自分が一番苦手とするラフレシアに、よりにもよって主君のフリッツが恋をするとは。  いまや諸国に武勇を持って知られるブルース伯爵も、これにはなす術を知らないでいる。  そのラフレシアの所へゆくのはあまり気乗りはしないが、場合が場合だけにブルースはエメラルダの後ろに付いて太后宮へと入った。  後宮(サイレン公国では〝内宮〟と言う)へさえ滅多に男は立ち入らないが、それが最奥部の太后宮となると、ほんの限られた人間のみが出入りするだけである。  ましてや軍人となると、例外中の例外と言えた。  エメラルダの先導がなければ、幾ら近衛騎士団の指令と言えども、こうも易々と入って行ける場所ではない。  なにせ、基本的には大公とその一家以外の男の立ち入りが、一切禁止されている場所なのである。 (宦官制度のないサイレン故に、最低限どうしても必要な場合以外に男は内宮には存在しない) 「ここがラフレシアさまのお部屋だ」  そう言ってエメラルダが立ち止まった。 「ここが・・・」  ブルースはエメラルダに聞き返した。  壮大な堂々たる扉を予想していたブルースは、目の前の自分の執務室の扉よりも遥かに小さな扉に、我が目を疑った。  そもそも大后宮自体が、こぢんまりとした小規模な建物だった。  それ程に質素な扉なのである。  しかし地味ながら見るものが見ればそれだとわかる、精巧な彫刻が施されている。 「ああ、ラフレシアさまはなにかにつけて質素を好まれる」  エメラルダはどこかしら、誇らしげに応えた。 「そ、そうか・・・。あの方は昔から飾り立てるのがお嫌いであったな」 〝本人はあれほど美しいと言うのに──〟  納得したように頷き小さく身震いすると、ブルースは扉を一気に押し開けた。
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