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 距離を詰めるとその分だけ隼人は後ずさる。 「大地?」  眉尻を下げて目を潤ませ俺を呼ぶ隼人の声は震えていた。それでも構わず一歩踏み出す。  隼人の背中が壁に当たる。身体をビクリとさせて小さく首を振る。  壁際に追い詰めて、肩の横に両手をついた。踵を上げて少し高い位置にある耳に顔を寄せる。 「隼人、どうして逃げるの?」  耳にかかる熱い吐息に隼人は身を捩る。  膝を隼人の足の間に割り入れた。壁と自分の体に閉じ込めてしまえば、自然と口角が上がる。  呼気の混ざる位置で見つめた。世界一綺麗な顔がぼやけてしまって残念。  隼人の息が唇に触れる。欲のままにむしゃぶりつきたい。 「好きだよ、隼人」  瞼を下ろして唇が合わさる直前、背中に激痛が走った。 「いってー!!」  滲む涙を拭い、数回瞬きをして辺りを見渡す。傍にあるベッドとパジャマ姿の自分に状況を察した。眠っていてベッドから落ちたみたいだ。 「最悪! もう少し遅く目が覚めてたら夢の中でだけど隼人とちゅーできたのに」  悔しくて頭を掻きむしる。  俺に迫られて弱々しく震える隼人なんて、都合のいい夢でしかない。今の関係を言葉にするなら幼馴染だから。  でも隼人可愛かったな。普段はキリッとした美人なのに、俺の前でだけ可愛くなるのズルい。いや、俺の願望が見せた夢だけど。  時計を確認すると、もうすぐ9時になろうとしていた。 「まだ早いかな」  夢に見てしまったせいか、会いたくてたまらない。  カーテンを開けて隣の家を見る。隼人は生まれた時から17年、ずっと隣に住んでいる幼馴染。隼人の部屋はカーテンが閉まったまま。  スマホを掴んでメッセージを送る。 「起きてる?」 『寝てる』  すぐに返信があった。起きてんじゃん。 「あーそーぼー」 『ご飯食べて準備するからちょっと待ってて』 「分かった。家に来て」  夢のシチュエーションは俺の部屋だった。再現なんて出来ないだろうけど、少しでも夢の続き気分を味わいたい。  OKのスタンプが送られてきたのを確認して、俺も朝食を食べる為に部屋を出た。  家には誰もおらず、トーストにバターをたっぷり塗った簡単な朝食を食べる。  父親はゴルフで母親はパート。夕方まで隼人と2人っきり。  あわよくば、夢の続きをしたい。隼人とちゅーがしたい。もちろんその先だって。不埒な妄想を頭を振って追い払う。  隼人は俺の事を友達としか思ってないのだから、現実には起こらない。ラッキースケベの神様に何度祈っても叶えてくれないし。そもそもラッキースケベの神様っているの?  朝から捗る妄想のせいでパンは冷めてしまった。冷たいトーストを牛乳で流し込む。  隼人が来る前に身だしなみを整えなければ。顔を洗って歯を磨き、頑固な寝癖と戦っているとインターホンが鳴った。
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