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2.行こう
花見なんて行かなくていい。ここでユウヒが美味しいと笑ってくれれば、と幸福感に包まれたカイトの耳に、ユウヒの柔らかい声が唐突に滑り込んで来てカイトは驚いた。
「え、だって。人、多いし。嫌だろ」
「嫌っていうか……うーん」
頭を掻き、ユウヒは箸を置く。ほぼほぼ皿が空になっていて、カイトは思わず笑ってしまった。
俺、まだ食べてないっての、と言おうと思ったけれど言わない。
「無理しなくていいよ。花見なんて行かなくても」
「桜は興味ないけど、カイトの作った花見弁当は食べたい」
「結局そこかよ」
やれやれ、食い意地が張った王子様だ。肩を震わせて笑ってから、カイトはサラダの乗った皿をユウヒの前に押しやった。
「花見弁当が食べたいなら作ってやるよ。ここで食べりゃいいし。なに入れてほしい? リクエスト受付中」
「うーん」
なんだか歯切れが悪い。どうした? と問いかけるが、ユウヒは答えてくれない。思案顔のユウヒに不安を覚え、さらに問いを重ねようとした矢先、脈絡なくユウヒが、うん、と頷いた。
「やっぱり行こう。明後日休みだし。カイトのとこも店、休みだよね?」
「そうだけど……いいのか?」
「いい。俺がしっかりしていれば済む話だから」
「はあ? いや、そんな気合を入れないと行けないなら無理しなくても……」
「とにかく決めたから。……ああ、食べたら眠くなってきたあ」
言いながらころり、とその場に横になる。おいこら、歯、磨いて寝ろよ! と声かけしつつ、カイトはひとり微笑んでしまった。
お弁当、なにを入れようか。ジャガイモ好きの彼のためにフライドポテトを揚げようか、肉巻きポテトにするのもいいかもしれない。唐揚げは必須。
浮き立つ心を押さえながら、カイトはカレンダーを眺めた。
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