告白

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「突然、呼び出してごめんな」  少し緊張した面持ちの矢崎くんが呼び出しに応じた私に謝ってきた。 人気のない校舎裏。 放課後の夕刻。 校庭の方から微かに野球部やサッカー部の掛け声が聞こえてくる。 胸がドキドキと高鳴るが、できるだけ平静を装って笑顔を作る。 「ううん、大丈夫だよ」  そう言って矢崎くんの次の言葉を待つ。 呼び出された理由はだいたい察している。 まあ、こんな場所に呼び出す理由なんて、そういくつもあるわけじゃないから。 「あのさ……突然こんなことをお願いするのも変なんだけどさ」  その言葉に私はがっくりとした。 これはアレだ。告白ではないヤツだ。  誰か友人へのメッセンジャーになれとか、紹介してくれとか、そういうの。 いや、まあいいんだけど? 確かに私は今フリーではあるけど、矢崎くんのことを好きだったわけでもないし? でもまあ、実際のところ矢崎くんは女子の間でも人気があり、学校のイケメンランキングの上位五位以内にランクインしている。 そんな矢崎くんに告白されるのは決して嫌ではない。 しかし、私の頭の中に疑問符が浮かんだ。 矢崎くんと私は特に親しいわけではない。 そんな私に頼みごとをする理由がわからない。 わざわざ呼び出して頼み事とはどういうことなのだろうか? クラスの友だちの誰かに間を繋いでもらうにしても私より仲の良い女子は何人もいるはずだ。 「私に何をお願いしたいの?」  考えるより聞いた方が早い。 矢崎くんは少し照れくさそうな顔で髪をクシャっと掻き上げた。 「どこから話せばいいかな」  憂いのある艶っぽい表情。 さすがイケメンランキング上位者。 これは女子なら誰でも見惚れる。 「うちのクラスに松井って女子いるよな?」 「うん」  松井さんなら知っている。 中学校の時の同級生。 仲は良くなかった。って言うか、できれば顔も見たくない的な。 松井さんは一言で言えば女王様。 顔もスタイルもモデル並みに良いが、常に周りに自分の言うことをきく数人を侍らせ、立場の弱い者を見下すような女の子。 矢崎くんはあんなのが好みなのだろうか。 だとしたら幻滅だ。 同級生だった私に間を取り持ってほしいとかならお断りだ。 「その松井は今、学校を休んでいる。もう一カ月くらい」 「そうなの?」  初耳だ。 病気か何かかな。まあ、私には関係ない話。 「今日、俺が君を呼びだしたのは松井も関係しているんだ」 「松井さんが?」  どういうことだろうか。 よくわからない。 いや、あの松井さんのことだ。よくわからないが、何か私に気に障ることがあって矢崎くんに頼んで酷いめにあわせようとしているのかも。 あの身勝手な女王様ならやりかねない。 え? もしそうなら、今の状況って私ヤバいのでは? こんな人気のない校舎裏に男子と二人きり。逃げ場なし。 「な、何を頼まれたの?」  緊張して声が上擦る。 いや、相手がイケメンでも無理なものは無理だし……そういうのじゃなくて普通に殴る蹴るの暴力かもだし。 なぜか急に肌寒くなってきた。 怖い……怖い…… そんな私の考えを察したのか、矢崎くんは私を安心させようとするかのような優しい微笑を浮かべた。 「ああ、そんな怖がらなくても大丈夫」  イケメンの微笑みは眼福だ。 私は少し緊張を解く。 「松井は君に謝りたいと思っている」 「松井さんが謝る? 私に?」  何の話だろう。 「許してあげてくれとは言わない。到底許せるような話じゃないからな」 「え? 待って。私には何のことかさっぱり……」  私は言いかけた言葉を止めた。 矢崎くんがポケットから取り出した物に視線が貼り付く。 それは便箋だった。 かわいいチェック模様で縁取りされた便箋には「高村くんへ」と書いてあった。 高村くんは同じクラスの男子で、学校のイケメンランキングには入っていないけど、私の中ではランキングトップの男子だ。 そんな高村くん宛ての手紙。 見覚えがある気がした。 「これは高村から預かった。どうかな、思い出した?」  え? どういうことだろう。 松井さん、矢崎くん、そして高村くん。見覚えのある手紙。 それらがぐるぐると頭の中を回り、その渦の中から一つの記憶が浮かび上がってきた。 「あっ!」  そんな私の様子を見て矢崎くんは頷いた。 「思い出したようだね」 「松井さん……ゆ……許せない……」  あまりの怒りにガチガチと歯が鳴った。 そんな私の様子に矢崎くんが悲しそうな表情を浮かべた。 「許せないよな。でも、もうやめにしないか?」 「何で!? 矢崎くんはあの女の味方なの!?」 「違うよ。君のためだ」  矢崎くんはそう言って手紙をポケットにしまった。 「もう終わりにしよう。大丈夫、痛くも苦しくもないから」  そう言って、今度はパラパラと小石を撒いた。 「高村へ渡すはずだった手紙。それを松井がからかい半分に黒板に貼って晒し者にした。君は恥ずかしさのあまり学校に来られなくなり、その後、松井と高村がつきあうことになったのを知った君は学校の屋上から身を投げて死んだ。松井を呪いながら」 「そうよ。あの女だけは許せない」 「俺の親は霊能者でね。俺もたまに手伝いをしている」  矢崎くんは手慣れたように手印を結び何やら呪文を唱えた。 「君が死んだ後、松井は君にしたことをSNSに晒されて、世間から散々に叩かれた。そのせいで心が壊れて家から出られない状態になっている。ただ、君に許しを乞う毎日だ」 「いい気味よ」 「君は怨みのあまり悪霊となってしまっている。それは永遠の地獄だ。俺が終わらせてあげるよ」  矢崎くんがそう言うと、先ほどばら撒かれた小石が一斉に燃えた。 その瞬間、私の身体がしゅうっという音とともに蒸発した。 私の意識も真っ白になった。 何もかもが霧のように消えた。 「次の人生は幸せになれよ……君には最後まで言えなかったけど、俺、君のことずっと好きだったんだ……今さら言ってもだけどな」
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