伸明 10

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 …金持ちには、イチコロ…  この言葉は、痛かった…  さすがに、痛かった…  なぜなら、事実、その通りだったからだ…  私は、これまで、伸明を疑いも、しなかった…  ただ、良家のお坊ちゃまだと、ばかり、思っていた…  同時に、  …もしかしたら、結婚できるかも?…  と、いう下心があった…  これは、事実…  否定のできない事実だった…  が、  だから、それを、利用された…  逆手に取られた…  と、いうのも、わかる…  が、  ユリコの言うことだ…  本当か、どうかは、わからない…  ただ、その可能性はある…  しかも、その可能性は、高い、と、言わざるを得ない…  私は、思った…  私は、考えた…  が、  事実か、どうかは、わからない…  真実か、どうかは、わからない…  それが、問題だ…  それが、一番の問題だ…  だから、  「…証拠は、あるんですか?…」  と、聞いた…  当たり前のことだ…  私は、ユリコから、即座に、  「…あるわ…」  と、いう言葉を聞きたかった…  なぜなら、その方が、すっきりするからだ…  同時に、納得するからだ…  だから、その言葉を聞きたかった…  が、  ユリコから、返ってきた言葉は、  「…それは、言えないわ…」  と、いう言葉だった…  これには、落胆した…  おおいに、落胆した…  「…どうして、言えないんですか?…」  と、私は、聞いた…  強く、聞いた…  が、  ユリコは、たじろぐことは、なかった…  むしろ、その真逆…  自信たっぷりな口調で、  「…寿さん…そんな簡単に、ニュースソースを、明かせるわけないでしょ?…」  と、笑った…  「…マスコミじゃないけど、誰々に教えてもらったなんて、言うことは、できない…うっかり、そんなことを、口にすれば、もう誰も、私に、そんな情報を教えて、くれる人間は、誰一人いなくなる…」  ユリコが、笑いながら、言う…  私は、それを、聞いて、納得したというか…  その通り…  まさに、その通りだと、思った…  子供ではないのだから、そう言われれば、納得する…  まして、ユリコは、天敵…    私の天敵だ…  が、  それでも、ユリコが、私にわざとウソをついていると、断言は、できない…  なぜなら、ユリコの話は、納得できる…  納得できるからだ…  納得できない話では、ないからだ…  ナオキは、私を、頼っていた…  明らかに、私を頼りにしていた…  だから、今、ユリコが、言ったように、FK興産の株の売却を検討するような、大事な話は、私が、ナオキの身近にいれば、絶対、ナオキは、私に相談をしていた…  あるいは、相談とまでは、いかなくても、話をしたに、違いない…  そして、その場合、なにより大切なのは、話をする相手が、身近にいること…  それに、尽きる…  これは、どんな場合も、そう…  自分で、どうして、いいか、わからないとき…  あるいは、自分で、どうして、いいか、すでに、わかってはいるが、他人に、意見を求めたいとき…  そんなとき、愚痴でもなんでもいい…  話をすることのできる相手が、身近にいることが、大事…  なにより、大事だ…  なぜなら、身近にいれば、一人で、抱え込むことが、ないからだ…  自分が、冷静にものを考えることのできる環境でいるときは、いい…  が、  そうでないとき…  つまり、極端に落ち込んでいたり、失敗続きで、精神的に、追い詰められていたとき…  そんなときは、誰もが、冷静な判断が下せなくなる…  例えば、ナオキが、そうだ…  私には、FK興産の経営状態が、どれほど、悪いのか、わからない…  が、  私が、身近に、いれば、ナオキを励ますことが、できる…  あるいは、どこかで、経営コンサルタントか、誰かに相談して、どうすればいいか、アドバイスを、もらえば、いいと、助言することができる…  が、  しかしながら、あまりにも、落ち込んでいた場合などは、そんなことは、考えられなくなる…  誰もが、冷静になれば、考えつくようなことも、考えられなくなる…  だから、これは、ある意味、洗脳に似ている…  周囲から、孤立させ、自分の言葉のみを信用させ、洗脳する…  それと、似ている…  そして、その通りの可能性がある…  私が、癌の治療のために、オーストラリアに行った…  すると、ナオキは、独りぼっち…  身近に、相談できる相手も、誰一人いない…  そんな状態のナオキに、伸明あるいは、和子が、FK興産の株の売却を提案すれば、心が、動くだろう…  なにより、私は、ナオキが、わかっている…  ナオキは、間違いなく優秀だが、決して、強くはない…  弱くは、ないが、強くはない…  だから、そんな心が折れかけた状態で、伸明や和子から、FK興産の株の売却を提案されれば、心が、動くことは、容易に想像できる…  そういうことだ…  私が、そんなことを、考えていると、ユリコが、  「…寿さん…思案中ね…」  と、笑った…  私は、頭にきたが、その通りだから、反論できなかった…  代わりに、  「…ユリコさん…」  と、言った…  「…どうして、そんな重要な情報を私に教えてくれたんですか?…」  と、聞いた…  当たり前のことだった…  「…ジュンの恩返しに決まっているでしょ …」  ユリコが、答える…  「…ジュン君の…」  「…そうよ…」  ユリコが、強く答える…  「…私は、アナタが嫌い…これは、アナタも、同じでしょ? …私が、嫌いでしょ?…」  「…」  「…でも、それとこれとは別…」  「…なにが、別なんですか?…」  「…ジュンのこと…」  「…ジュン君の…」  「…寿さん…アナタが思っているより、私、アナタに恩を感じているのよ…」  「…恩…」  「…アナタが、法廷で、ジュンを宥恕(ゆうじょ)しなければ、ジュンは、もっと重い刑になった…だから、恩にきている…なにしろ、ジュンは。私の産んだ子供だから…」  「…」  「…つまり、そういうことよ…」  その言葉が、すべてだった…  ホントか、ウソかは、わからない…  ただ、その言葉が、すべてだと、思った…  ユリコのすべてだと、思ったのだ…  「…私は、アナタが嫌い…そして、アナタも、私が嫌い…」  「…」  「…でも、それと、これとは、別…別なの…」  ユリコが繰り返す…  が、  私は、それを、信じていいか、わからなかった…  ユリコの言うことは、わかる…  理解できる…  納得できる…  が、  だからこそ、信用できない…  納得できることを、言うから、信用できない…  納得できることを、言うから、罠だと、思ってしまう…  罠だと、疑ってしまう…  これが、そもそも、納得できない話なら、いい…  誰もが、ウソだと、一目で、見破れるから、いい…  しかしながら、納得できる話となると、難しい…  これが、ウソか、ホントか、見破るのが、難しい…  そういうことだ…  だから、私は、悩んだ…  悩み抜いた…  そして、私が、悩んでいると、  「…じゃ、寿さん…これで…」  と、ユリコが、スマホの向こう側から、言った…  私は、思わず、  「…エッ?…」  と、呟いた…  が、  それに、ユリコは、反応することは、なかった…  ただ、スマホの向こう側から、  「…これで、用事は、済んだわ…後は、寿さんが、この情報をどう生かすかは、寿さん次第…」  「…」  「…この情報を信用するか、否かは、寿さん次第…」  と、ユリコは、私をわざと、戸惑わせるように、言って、プツンと、電話を切った…  私は、あまりにも、突然、電話を切られて、呆然とした…  あまりにも、呆気なく、電話を切られて、しばし、どうして、いいか、わからなかった…  それほど、ユリコの話は、衝撃だった…  私にとって、衝撃過ぎた…  伸明も、和子も、信じられなくなった…  と、までは、言えないが、疑いの目で、見るようになったのは、確かだ…  が、  同時に、もしかしたら、それが、ユリコの狙いかも?  とも、思った…  私に、伸明と、和子を疑わせ、五井との関係を裂く…  少なくても、この話を聞いた以上、それが、真実か否かは、置いておいても、これまで通り、伸明と和子と、接することは、できない…  どうしても、二人を疑いの目で見るからだ…  そして、それこそが、ユリコの狙いのようにも、思える…  あのユリコのことだ…  いかに、ジュン君の名前を出して、私を説得しようが、どうしても、ユリコの言うことを、素直に信じることができない…  まあ、これは、ユリコも同じ…  ユリコもまた同じように、私の言うことを、素直に信じることは、ないだろう(笑)…  だから、同じ…  同じだ…  だから、もしかしたら、似た者同士…  私とユリコは、似た者同士…  だからこそ、反発する…  似た者同士だから、余計に反発する?  ちょうど、磁石のNとN、SとSのように、反発する…  そう、思った…  同時に、これは、発見…  これまで、考えたことのない発見だった(苦笑)…                <続く>
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!