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「陽菜がやっと卒業するし、二人でこの家出て行くから」
真知の通告に、夫は固まった。
今更何を驚いているのか、その反応こそ不思議でならない。
「何言って、……出て行く?」
「そうよ。だから離婚するわ」
狼狽える夫の天の姿に笑いが込み上げる。
「あのさ、子どももようやく二人とも大学卒業して就職するの。これ以上私が我慢してお前といる意味ってなんかあるの?」
真知が冷ややかに言い放つのに、天が息を呑んだのが見て取れた。
「……ずっと我慢して俺といたのか!?」
「それ以外にお前なんかと一緒に暮らすわけないでしょ。ああ、別に『別れない』って言い張るのは自由よ。たとえ裁判になったって、時間が掛かるだけでお前の主張が認められることは絶対にないから」
その理由は本人もよくわかっている筈だ。「証拠」は挙げればきりがないほどこの手にある。
「晋は知ってるのか? あいつが聞いたら──」
「知ってるわよ。喜んでた」
三年前に大学を卒業して家を出た息子の名に、事実だけを告げる。
自分たちがいるから母は父と別れられない、とずっと気にしていたらしい晋。
「晋がそん、そんな……、あいつは」
「あのさ、お前晋に好かれてるとでも思ってたの? すごいね、図々しい。あの子、私に気遣って黙ってただけでお前のことものすごい憎んでるよ。ああ、陽菜は言うまでもないけど」
今まで別れなかったのは、ひとえに子どもの通学のためだ。経済的にはいつでも子連れで出て行くことは可能だった。
中高はもちろん、息子も娘もこの家から通いやすい大学を選んだため下手に転居する気になれなかった。
ただそれだけ。
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