11人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
もう一度会えたなら
私には、小学生の頃からの夢があった。
それは、薬を開発する研究者になること。
でも、当時の私の周りに同じ夢を持つ者はおらず、その上、私の成績が悪いということもありバカにされた。
頭が良くなきゃなれっこない。
それが将来の夢なんて変なの。
そんなことを言われ続けた。
そして、それは両親も同じだった。
「もうすぐ貴女は中学生になるんだから、せめて大学くらいは行っていいところに就職しなさい」
母はその後付け足すように言う。
夢は夢で終わらせなさい、と。
その言葉は、夢は叶わないと言われたも同然だった。
それから時は過ぎ、私は両親が望んだ通り高校に入学した。
だがその高校は普通のところではなく、製薬開発技術者を目指す者の学校。
私はその大学で新薬開発のための製造技術の開発、研究など、それぞれの専門分野をもとに、製薬に関わる研究を行った。
勿論大学に入るのも簡単ではなく、勉強もだが、両親の反対があったのは私にとって辛いものだった。
両親には、何度も普通の大学に行くだけでいいと言われたが、私はこの大学にしか興味はなく、他を受けるつもりなんて最初からない。
受からなかったらどうするつもりなのかと言われたが、私は両親の言葉も無視して必死に頑張り、そして見事合格することができた。
だがこれで終わりではなく、ようやく夢に近づいたというだけでしかない。
合格すると両親達の反対はなくなったが、大学から近い場所で私は独り暮らしを始めた。
それから数年後――。
「若博士、聞きましたよ。新しい新薬を開発されたんですよね」
「ええ。って、その若博士ってやめてくれないかな」
「何言ってんですか! 大学卒業後、凄い新薬を開発して、そこから一気に俺達なんか足元にも及ばない、今じゃあ若博士じゃないですか」
そう、私は必死に頑張った。
その結果、大学の研究機関に就職し、その後いくつかの新薬を開発した天才として名が知られた。
今では研究者の仲間が私を尊敬し、若くして天才となった私を若博士として呼ぶ。
なんだか博士と呼ばれることに違和感しかないのだが、私の今は充実している。
「そういえば若博士って、なんで研究者になったんですか?」
「憧れ、かな」
「若博士が憧れるほどの人ってどんな人なんですか?」
興味津々といった様子で尋ねてくるが、私は秘密と答えた。
そして頭の中では、あの日のことを思い出す。
あれはまだ私が保育園の頃の話し、家の近所に暮らす大好きなお兄さんがいた。
そのお兄さんは研究者で、薬を研究する仕事をしていたのだが、新薬の開発が簡単にできるはずもなく、お兄さんはこれといった成績を残すこともできずにいた。
そんなある日、私が高熱を出して寝込んでいると、微かに声が聞こえてくる。
熱のせいか、その声はどこか遠い。
「これを飲んだら治るからね」
私の意識はそこで途絶え、どうやら寝てしまったらしく、目を覚ました私は高熱が嘘の様に引いて、1日でいつもの元気な状態に戻っていた。
昨日お兄さんが来て薬を飲んだところまでは覚えている。
きっとあの薬のお陰に違いない。
最初のコメントを投稿しよう!