出し忘れ

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 僕が中学校の廊下を歩いている時だった。 「田中、ちょっときなさい」  振り返ると担任の先生が手招きをしていた。思わず眉根を寄せる。 ――チョビヒゲオヤジが何の用だろ? あっ、もしかして……。  僕は舌打ちをした。 ――今日出し忘れた宿題のことかな? くそっ、バレてないと思ったのに。 「おーい田中?」 「あっ、はい」  俯きながら先生の元に向かう。 「どうしたんですか?」  恐るおそる訊ねると、 「今日出し忘れていた宿題のことなんだがな」  先生が思っていた通りの話を切り出す。僕は顔を上げた。 「すみません!」  先生が驚いた表情になる。 「田中……?」 「宿題、やったんですけど家に忘れてきました!」  ウソだった。昨日は学校から帰るとマンガばかり読んでいて、宿題なんて全然やってなかった。でも、こう言った方があまり怒られないような気がした。 ――別に良いじゃん。今日はエイプリルフールなんだし。  内心で舌を出す僕を前に、 「ふむ……それなら仕方ない」  先生は無言でチョビヒゲを撫でたあと、腕を組んだ。 「宿題を今すぐ取りに帰りるんだ」
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