アンラッキー7

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 ナナを一言で表現すると、「いい子」ということになる。  子供の頃から、ずっとそうだった。言われたことはキチンと守る。決まりごとやルールは絶対に破らない。廊下にゴミが落ちていたら必ず拾う。横断歩道では右手を上げるし、自転車の二人乗りは絶対にしない。  真面目に勉学に励むので、つねに成績はトップクラス。先生や同級生からの信頼もあつく、毎年のように級長に推薦され、小中高と生徒会長を任されてきた。まるで絵にかいたような優等生である。  ナナにはユニークな特性があった。やたらと運がいいのだ。抽選や懸賞を当てたことは数知れず。プレミアチケットを手に入れることなど、日常茶飯事だった。  もしかしたら、無欲の勝利なのかもしれない。じゃんけんなどは、ナナが勝とうとしなくても、簡単に勝ってしまう。あろうことか、相手に後出しをさせても勝ってしまうのだ。  いつからか、ナナは「ラッキー7」と呼ばれるようになっていた。  ただ、運の良さは、ナナのコンプレックスでもある。運に関しては、せめて人並でありたいと思っていた。贅沢(ぜいたく)な悩みではあるが、ナナの人の良さは、さらに上を行く。 「私の幸運を不幸な人たちにわけてあげてください」と、心から願っていたのである。  ある時、その願いは聞き入れられた。神様の使いがあらわれて、深々と頭を下げたのである。ナナの絶対的な幸運は、実は神様のケアレスミスだったのだ。どうやら、国内のほとんどの幸運が、ナナ一人に流れ込んでいたらしい。  神様の手直しによって、ナナの幸運はきれいに消失した。それどころか、これまでの幸運を相殺(そうさい)するような不運に見舞われることになる。  まず、勤務先の倒産が相次いだので、ナナは何度も転職を繰り返した。さらに転勤も多く、必然的に「引っ越し魔」になる。毎年春になると、全国各地を転々とした。  さらに、何度も地震にあった。皮切りは2011年3月、福島県での東日本大震災。その後、岡山県・広島県を経て、熊本県に移ったのだが、2016年4月に熊本地震。長野県・新潟県を経て、北海道に移ったのだが、2018年9月に北海道胆振(いぶり)東部地震。秋田県・富山県を経て、石川県に移ったのだが、2024年1月に能登半島地震。  これほど地震にあった人間は、ナナ以外に一人もいないだろう。  今や、完全な「アンラッキー7」になってしまったわけだが、この状況をナナは喜んで受け入れている。なぜなら、ナナ一人の幸運よりも、大勢の人が幸運になってくれた方が、はるかにベターだから。(国内・海外を問わず、大きな地震は起こらないでほしいけど)  つまり、子供の頃と何も変わらず、ナナは「いい子」だったのだ。
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