伸明 11

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 三日が経った…  ユリコから電話が、あって、三日が、経った…  が、  なにも、変わらなかった…  相変わらず、ナオキからは、連絡がなかった…  私もまた、一歩も家から出ることなく、悶々と過ごした…  ユリコの言うことが、真実か否か、考えながら、悶々と過ごした…  もちろん、体調が、さほど、良くなかったというのもある…  が、  それ以上に、ユリコの言葉は、ショックだった…  だから、ユリコの言葉に幻惑されたというか…  文字通り、惑わされた…  そして、それが、体調に直結したというか…  病は気から、という言葉ではないが、ユリコの言葉が、ショックのあまり、気が滅入った…  だから、もしかしたら、これが、ユリコの狙いかも?  とも、思った…  私を精神的に、追い詰め、体調を悪化させる…  それが、もし、ユリコの目的だとしたら、ユリコの目論見は、成功したと言える…  ユリコの言うことを、信じたくはないが、まったくのウソとも、思えない…  だから、余計に、幻惑される…  余計に、惑わされる…  そういうことだ…  私は、思った…  私は、考えた…  が、  ユリコのせいには、できない…  なぜなら、一番の問題は、ナオキ…  藤原ナオキだからだ…  会見の後、どうして、ナオキは、私に連絡をよこさないんだろ?  それが、疑問だった…  これまでは、ナオキは、なにか、あると、必ず私に連絡してきた…  私に相談してきた…  が、  今回はそれがない…  だから、それが、一番の問題だった…  そして、そんなことを、考えると、  …もしかして、女?…  …女が、できた?…  とも、思った…  なぜなら、ナオキは、女好き…  根っからの女好きだからだ(笑)…  が、  少し考えて、それはないと、思い直した…  仮に、女ができたとしても、私とは、別…  自分で言うのも、なんだが、ナオキにとって、私は、別格…  別格の女だからだ…  なにより、私とナオキは、カラダで繋がっているのでは、ないということ(苦笑)…  これが、大きい…  正直、カラダの関係が、第一だと、すると、飽きる…  食べ物ではないが、どんなにおいしい食べ物でも、毎日食べれば、飽きる…  それと、似ている…  が、  カラダではなく、心が繋がっていれば、それはない…  飽きることはない…  要するに、気が合うのだ…  これが、一番…  これならば、飽きることがないからだ…  互いに、居心地がいい…  これが、一番…  どんなに、美男美女でも、互いに気が合わなければ、いっしょに、暮らし続けることは、難しい…  例えば、男なら、誰もが、佐々木希に憧れるが、それと、実際に佐々木希と、暮らすのは、別の話…  なぜなら、佐々木希が、ホントは、どんな人間か、誰も、知らないからだ…  テレビや雑誌やネットで、見るのは、タレントとして、作られたイメージの姿…  だから、ホントは、佐々木希が、どんな人間かは、身近に接している人間でなければ、わからない…  それは、中学生や高校生でもない、まっとうな大人なら、すぐに、わかるはずだ…  つまりは、そういうことだ…  だから、佐々木希ではないが、私にとって、ナオキは、佐々木希と同等だったのかも?  と、思った…  女の佐々木希とは、違い、藤原ナオキは、男だが、長身のイケメンで、お金持ち…  なにより、気が合う…  だから、ずっと、いっしょにいた…  高校生のときから、ずっと、いっしょにいた…  いっしょに暮したのは、最初の数年だったが、ビジネスの現場では、ずっと、いっしょにいた…  社長と社長秘書という関係で、ずっと、いっしょにいた…  それを、思った…  そして、そんなことを、考えれば、考えるほど、ナオキと無性に会いたくなった…  今すぐにでも、会いたくなった…  これは、会えないから、会いたくなった…  と、いうことだ…  いつでも、会えるならば、別に会いたくも、なにもない…  なぜなら、いつでも、会いたいときに、会えるからだ…  だから、別段、会いたくもなくなる…  会えないから、会いたくなる…  そういうことだ…  それは、例えば、ブランドがそう…  同じだ…  フェラーリのような高級車が、欲しいと、思うのは、誰もが、普通は買えないから…  簡単に、フェラーリを購入できるような財力がある者は、それほどでもないだろう…  それほど、欲しいとは、思わないだろう…  なぜなら、簡単に手に入れることが、できるからだ…  フェラーリに限らず、なんでも、そう…  なんでも、同じだ…  手に入れられないから、欲しくなる…  つまるところ、そういうことだからだ…  だから、私は、今、ナオキに会いたかった…  無性に会いたかった…  会えないから、会いたかった…  そういうことだった…    ちょうど、そんなことを、考えながら、さらに数日経った頃だった…  いきなり、マミさんから、電話があった…  伸明の妹のマミさんから、電話があった…  私は、急いで、電話に出た…  スマホに出た…  すると、いつもと、変わらない口調で、  「…寿さん…元気?…」  と、いう声が、スマホから流れてきた…  私は、それを、聞いて、ホッとしたというか…  とにかく、心底、ホッとした…  電話の主が、待っていたナオキでは、なかったが、マミさんでも、良かった…  今回のFK興産の株の売却の真相を知る者なら、誰でも、良かった…  なぜなら、私だけ、のけ者にされている…  それが、嫌だった…  ホントは、FK興産は、私のモノでも、なんでもない…  なぜなら、私は、FK興産の株ですら、一株も持っていないからだ…  ただの雇われ人…  ハッキリいえば、そういう立ち位置の人間だった…  だから、ナオキが、FK興産の株を、五井に売却しようが、私には、なんの関係もない…  それは、例えば、大企業に勤めるサラリーマンと同じ…  同じ…  同じ立場だ…  が、  例えば、大企業に勤めるサラリーマンでも、会社が株を売却して、どこかに、会社が、売られるとなると、当然、気になる…  なにより、それにより、自分の身がどうなるか、わからないからだ…  最悪、リストラが行われ、自分が、会社を、クビになる可能性すら、ある…  だからだ…  私もまた、それに似ている…  FK興産は、すでに、退社していたが、それに似ていた…  なにより、私は、FK興産に愛着があった…  それは、FK興産という会社の名前に現れている…  ナオキとユリコが作った会社が、少しばかり、軌道に乗り、会社の名前をFK興産と改めた…  FK興産のFは、藤原ナオキのF…  そして、FK興産のKは、寿綾乃のK…  この真実を知る者は、もはや、FK興産の社内には、ほとんどいない…  創業メンバーの中でも、ごく親しい人間のみ…  私もナオキも、それを、公然と口にしたことは、ないが、さすがに、わかる人間には、わかっていた…  誰でも、そうだろう…  例えば、会社で、男女が、極秘に付き合っていたとする…  それを、簡単に見抜く人間が、いる一方で、最後まで、わからない人間もいる…  …私たち、今度、結婚します…  と、職場で、周囲の人間に宣言して、初めて、二人が、付き合っていたことを、知る人間もいる…  これは、その人間が、頭が悪いわけでも、なんでもない…  ただ、そういうことを、気にしない…  頓着しない人間だということだ…  そして、なにより、それがわかるのは、能力…  能力=才能だ…  会社で、周囲に付き合っているのを、公開していないにも、関わらず、二人が、付き合っているのを、知っている人間は、極端にいえば、人間観察が鋭いというか…  二人が、ちょっとしたことで、親しいことを、見逃さない…  そういうことだ…  誰にもできることではないが、自分は、たやすくできる…  それが、才能だからだ…  そして、私が、そんなことを、考えていると、  「…ショックだった?…」  と、マミさんが、電話の向こう側から、遠慮がちに、聞いてきた…  私は、相手が、マミさんだから、遠慮なく、  「…ハイ…ショックでした…」  と、答えた…  なにが、ショックなんだか、互いに聞くこともなかった…  当然、ショックなのは、ナオキがFK興産の株を、五井に売却したこと…  それに、尽きるからだ…  ほかに、話題はなにもない…  「…でしょうね…」  電話の向こう側から、マミさんが、相槌を打った…  「…でも、仕方がなかったのよね…」  マミさんが、続ける…  「…仕方がなかった?…なにが、仕方がなかったんですか?…」  「…五井を守るために、仕方がなかった…」  マミさんが、意外なことを、言った…  …五井を守るために仕方がなかった?…  …どういう意味なんだろ?…  私は、思った…  だから、すぐに、  「…それは、一体、どういう意味ですか?…」  と、聞いた…  なにしろ、マミさんだ…  聞きやすい…  正直、マミさんとは、気が合う…  だから、聞きやすい…  ちょうど、あのユリコと、真逆…  私にとって、マミさんは、ユリコと、真逆だから、聞きやすい…  そういうことだ…  そして、そんなことを、考えていると、  「…五井は、連合体…」  と、スマホの向こう側から、マミさんが、言った…  「…連合体?…」  思わず、マミさんの言った言葉を反芻した…  反芻=繰り返した…  「…そう…連合体…五井の本家を頂点とする、連合体…だから、下手をすれば、崩れる…まるで、ピラミッドが、崩れるように…」  マミさんが、意味深に言った…                <続く>
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