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           2  あれから、十日と経っていない。 「克明は、何でここにいるわけ?」 「うん?かっこういい男に出会えたら声かけようか、なんて冗談。ちょっと、お買い物」  ぼくは、答えた。 「じゃあ、時間あるだろう。カフェにでも行こうぜ」  祐一は、ぼくをカフェに誘った。驚かずにいられない。あれ程、ショッキングな離れ方をしたのにこの気軽さは何なんだと思わずにいられない。 「いいけど。週刊誌とかに掲載されたら困るんじゃない?そうだな、例えば、『元レイダーズの佐村、同性愛か?』とか」 「ない、ない。元レイダーズの佐村なんて、忘れられた存在だよ」 「そう、ひがまないでよ。じゃあ、東口に時折行く喫茶室があるからあそこ行く?」 「コーヒーが、千円の店だったよな」    ぼくと祐一は、本当に久しぶりに肩を並べて歩いた。百八十六センチのイケメンの祐一と百七十三センチの聞いたことがあるモデル事務所から声がかかったりする今日もばっちりメイクをし、おしゃれを決め込んだぼく、けっこう絵になるふたりに思えた。 「トライアウト観たけど、スピード、もう、あがらないの?」  池袋の西口から東口への地下道の人の波をかわしながら、僕は、祐一にとって嫌に違いない質問をぶつけていた。佐村祐一は、速球が最大の武器だった。それが、肘を壊し、手術した結果、急速に落ちたのである。 「自分では、百四十五キロまでは上がると思っている」  祐一は答えた。以前は、速球に関しては百四十七キロ位はコンスタントに出ていたが、そこまでは、無理ということか。  前から来る若い男が、祐一に視線をやる。隣の友人らしき男に話しかけると、彼も祐一を見た。ドラフト三位で期待の高卒投手だったし、入団四年目には、五勝をあげていたし、この前のトライアウトの番組では、かなり、アップに映っていたから、気づかれた可能性はあった。  コーヒー千円の喫茶室の周りに人がいないソファにぼくと祐一は、腰をおろした。  祐一は、「あっついな」と言いながら、ハーフのダウンコートを脱いだ。  目を見張った。ダウンコートの下は、白地のセーター。左右とも肘の下まで捲られ、左手の手首には、いかにも高級そうな腕時計がはめられていた。 「さすがぁ」  ぼくは、声をあげていた。  「さすがぁ」は、ファッションだけでなく日に焼けた鍛えられたたくましい腕や盛り上がったセーターの上からも見て取れる胸の筋肉に対する賞賛だった。 「体、全然、違うね」 「ああ、克明だって、筋トレすれば」  ここまで言って後の言葉を濁し、右腕の肘を曲げてグイッとボクの方に突き出した。ぼくは、力こぶにセーターの上から触れてみる。 「触っていい?」 「いいよ」 コッチ、コチ。 「ねえ、胸の方も触って大丈夫?」 「いいよ。だけど、克明に触られのは、ちょっとばかり照れ臭いな」  言いながらも、祐一は、ボクの方に前かがみになった。ボクは、掌を広げ、祐一の胸にあてた。やはり、コッチ、コチだった。 「暖房効きすぎ」  ぼくもジャケットを脱いで、山吹色のハイネックのセーター姿を祐一に見せることになった。            
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