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「じゃあ私は仕方なく宮原とランチ行くかー」
「仕方ないって……」
「だって雲雀は愛情弁当持参だもん。私一人になっちゃうじゃん」
「わかったわかった、一課のみんなも一緒だよ」
「あざーす」
実世はお礼の言葉を述べて、本日のランチに文斗とその仲間たちを確保した。
すると、文斗がこのタイミングで同期の二人に尋ねておきたいことを思い出す。
「そうだ、今月末の歓迎会。二人共くるよな?」
「もちろん。新卒と親交を深める機会だし。雲雀も行くよね?」
「うん。タダでビール飲めるし」
「はは、雲雀は相変わらずだな」
雲雀にとって飲み会は面倒なものではなく、会社が経費を使って酒と料理を提供してくれる絶好の機会。
そんな考えの元カノが面白くて、自然と笑みをこぼした文斗の心は更に揺れ動く。
交際していた高校三年生の頃から、自由で素直で裏表がない性格が変わっていない雲雀。
互いに大人になった今でも、その魅力に惹かれていた自分の気持ちを心の奥底に寝かせつつ。
本人を前にすると、どうしても欲が出てしまいそうになった。
「じゃあ、その時にまたゆっくり話そう」
「あ、うん……」
「じゃあね雲雀、愛弟弁当完食しなよ♪」
「愛弟て……」
実世に言われた初めて聞く単語に渋い顔をした雲雀は、外食に向かう実世と文斗を見送った。
そしてようやく周囲が静かになってデスクの上を片付けて、その愛弟弁当をトンと置く。
(愛弟、ねぇ……)
果たして愛情があるのか疑わしい、目の前の弁当箱。
雲雀は最近の壱臣の叱り顔を思い浮かべながら、そっと蓋を開いた。
中身の具材は昨夜の夕飯残りの唐揚げに、定番の卵焼きとミニトマトなども添えられている。
なぜ壱臣の叱り顔を思い浮かべたかというと――。
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