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ぽんぽんと、景気のよい音を立てて花火が上がった。
夜の空に開く大輪の花ではなく、祭りに勢いをつける祝砲。
本来は音だけのその花火。それが青空に大きく咲く様子が見えた。
…今年はうちの町が選ばれたのか。
明治の終わり頃まで、市のど真ん中辺りに存在していた古い神社。
いつから建っているのかも何を祀っているのかも判らないが、そこには宮司がいて、毎年何やら祭礼が行われていたらしい。
だけど江戸から明治に移る頃、どうしてか宮司がいなくなり、神社は誰の手も入らぬまま放置された。そして、市の発展のために街並みを整理する話が持ち上がった際、形ばかりの儀式をして、神社は町外れに遷宮された。
でもそんなことに意味はないんだ。
市の中心に存在していた神社、祀られていたのは、決してそこから動かしてはならぬもの。正当な供養をし、鎮め続けなければならないもの。
遷宮が済んだからと、社を壊し、跡地を道路にして、そこに神社が存在した名残さえが消えた後、ここで暮らす者達は思い知ったんだ。あの神社は、絶対にあそこになければならなかったのだと。
全部俺が生まれる前からの話だよ。だけどこの土地に生まれた者は、物心ついた時には『それ』を知ることになる。
市内にあるいくつもの町や村。毎年桜が咲く頃に、その総てに響き渡る祭りの祝砲が鳴り響く。誰も上げてなどいない祝砲が。
その時、空に花火が見えたら、その年はその町、あるいは村に、幾人もの死者が出る災いが降りかかるんだ。
天災、疫病、大事故…。
ここから逃げようとしても、この市から離れることは誰にもできない。単なる引っ越しはむろん、ここを離れるために進学や就職などをしようとしても、何かに阻まれるようにそれは叶わず、神社がなくなって以来、市の住人は代々この土地に縛られ続けている。
祀り続けなければならない何かを蔑ろにした者達への、終ることのない罰。
それを告げる、鎮められることのなくなったものにだけ祝いとなる花火の音が、今もまだ鳴り響く…。
祝砲…完
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