第7話 奸佞邪智《かんねいじゃち》を打ち破れ

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 翌日は、快晴。  GWの最終日。締め括りを近間でのんびり過ごそう、と考えた人々で賑わった。  準備していた、4種類100食ずつの試食ランチは、瞬く間に売り切れとなった。スマホで答えてもらったアンケートも、好評だった。さらに頂いたご意見を元に、改良を加える必要はあるが。 「もう、足がパンパンです。ジムのハードなトレーニングより、疲れました!」  純平くんが、悲鳴を上げている。 「…ここだけの話、昨夜、大変だったそうですね。実は、鏑木さんから連絡があって、早朝から食材の番です。もう眠くって…」  そうか…。鏑木さんが、真山にあれ以上の妨害をされないように、気を付けてくれたんだ。逆恨みしないとも限らないから。  昨夜は、いつの間にか眠ってしまったらしい。  気がついたら、服のまま自分のベッドに寝ていた。  記憶はないが、海門が運んでくれたんだろう。 「おはよう…」  リビングに行くと、海門がキッチンで朝ごはんを作っていた。  目玉焼きと、トーストとサラダ。 「おはよう。食えよ」  二人とも、口数は少なかった。  そして、海門を残して、マンションを出たのだ。  頬に、手を当てる。海門の、硬い胸の筋肉の感触を思い出す。  思いもよらないほどの熱を感じた。  夏樹には、言えなかった。心配させたくなかったし、知ったら、タダじゃ済まないだろう。  撤収作業もほぼ終わりに近づいた頃、鏑木さんと夏樹が、工事中のカフェに向かって歩いていくのが、目に入った。  胸騒ぎがする。  残りの作業の指示を、純平くんに頼んだ。 「はーい!それじゃ、スタッフの皆さん、集まってくださーい!」  純平くんの声を、背中で聞きながら、後を追う。  建物の中に入った途端、激昂する夏樹の声が聞こえた。 「アンタを信頼してたのに、なんで翠が危ない目に遭わなきゃならないんだ!」 「すまない…。こちらの落ち度だ」  更に言い募ろうとしている夏樹を止めようと、建物内に足を踏み入れた。 「…翠」  二人が同時に、こちらを振り向く。 「夏樹、心配してくれて、ありがとう。私は大丈夫。何もなかったんだから」 「しかし…。またそいつが何かしないか、心配なんだ」  確かに、それはある。簡単に諦めるとは、思えない。これまでも、だいぶしつこくされてきた。 「心配ない。手は打った」  声のする方を、皆が一斉に見た。  背後に海門が立っていた。 「昨夜のうちに、兄貴に報告した。奴は連休明けから、神戸で倉庫係だ。こちらに戻る心配はない」 「クビじゃないんだ…」  夏樹が呟く。 「クビにしないで、こっちで管理しておいた方が、ヤケになって何かを起こすことを防げる。今回は坂下常務も、認めるしかなかったようだ」 「甘いんだよ。そんなヤツをのさばらせておくから、翠が危険な目に遭うんだ」  夏樹が容赦なく、詰め寄る。 「ああ。俺が甘かった。冬星から報告を受けていたのに、すぐに動かなかったのは、俺のミスだ」  海門が、私と夏樹の方に向き直る。 「すまなかった。許してほしい」  言葉と共に、頭を下げた。  一瞬、呆気にとられた。  あの海門が頭を下げるなんて、前代未聞だ。ビックリした。  その場にいた全員が、同じことを思ったに違いない。 「もう同じことは二度と起きない。だから、引き続きこの施設の運営に、力を貸してもらいたい」  夏樹を見ながら言う。  夏樹はしばらく黙っていたが、 「…約束しろよ」 と、まっすぐ海門を見据えて言った。  何とか、収まった。私は、深くため息を吐いた。 「それにしても、夏樹は昨夜のこと、誰から聞いたの?」 「翠が朝から元気がなかったんで、どうしたんだろうと思っていたんだ。それで、さっきジムの若いヤツを脅したら、吐いた」  純平!もっと耐えろ! 「姫、昨夜は怖かったろう?私を呼べばよかったのに…」  えーと…。 「ああ。大丈夫だ。俺がずっと一緒だったから」  海門が、ツラッと言う。 「…貴様…!姫に何もしなかったろうな!!」  夏樹が、海門に喰って掛かっている。  あーあ、もう!せっかく収まったのに、何で余計なことを言うかな!コイツは!!  二人のやり取りの向こう側で、私を見ている鏑木さんと目が合った。  その視線は、何かを悟ったような切なげな眼差しだった。
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