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「海門!」
足が震える。だが、力を振り絞って走り出し、海門の背中に回る。
鏑木さんが、ずいッと真山の方へ近寄る。
「ずいぶん、酷い事を言ってましたね。あの脅しは犯罪ですよ。この間の事と言い、タダでは済まないと思ってくださいよ」
鏑木さんの声音から、怒りが滲み出ている。
海門を振り返って、
「GM、私は外で待っているタクシーで、真山さんを駅までお送りします。ちゃんと、電車に乗るところまで見届けますので、一ノ瀬さんをお願いします」
と言った。
鏑木さんの眼力は迫力がすごい。真山は蛇に睨まれたカエルのようにおとなしくなっていた。
「ああ、わかった。頼む」
そして、連行されるように、出て行った。
「大丈夫か?」
背中に隠れるように、小さく纏まっていた私を、海門が振り返る。
「…平気よ。これくらい」
「車が外にあったな。運転するから、キーを貸せ」
「お酒は?」
「一滴も呑んで無い」
歩き出そうとしたのだが、気が緩んだせいか、足がもつれてしまう。
「しょうがねえな」
体が、空に浮いた。
えっ?何、これ。お姫様抱っこってヤツ?
チョー恥ずかしいんですけど!
ってか、触ってるじゃん!
私の心の声が、聞こえたのか、
「ここは、家じゃないから、ノーカンな」
と言って、ニッと笑った。
まずい。心臓の音が、すごい事になってる。漫画だったら、『ドキドキ』って吹き出しが、周り中に付きまくっちゃう。
そのまま、車まで運ばれて、後部座席に乗せられた。
海門の運転で、マンションまで戻ってきた。
もう11時を過ぎていた。
キッチンに入った海門が、冷蔵庫から水のボトルを取り出し、
「ほら」
と言って、私に差し出した。
受け取って、その場で一口飲んだ。ホーっと深い息を吐く。
海門はソファーに体を預けて、こちらを見ていた。
「どうする?お前の母親か、美也子さんにでも来てもらうか?」
「いいえ。もう遅いし、心配かけたくないから…」
「…そうか」
海門が、ソファーの自分の横を叩く。
「じゃあ、来いよ」
ちょっと、びっくりした。そのまま動けない。
海門が私に向かって、手を伸ばす。
「…何よ」
右手の中指の先を、掴まれて、そっと引き寄せられる。
海門の隣にポトンと座る。
そのまま、抱えられた。
「…触らないんじゃ、なかったの?」
「今日は、特別ルール」
海門の胸に、頬をつける。心臓の音が聞こえる。
何故か、スーッと涙が一筋、頬を伝わる。
「大丈夫だ。二度とあんな目には遭わせないから」
「…うん。…海門」
「何だ?」
「…来てくれて、ありがとう」
「ああ…」
海門の心臓の音を聴く。一定のリズムで刻まれる、命の証。
昂った心が、静かになっていく。
そのまま、眠りに引き込まれていった。
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