第7話 奸佞邪智《かんねいじゃち》を打ち破れ

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「海門!」  足が震える。だが、力を振り絞って走り出し、海門の背中に回る。  鏑木さんが、ずいッと真山の方へ近寄る。 「ずいぶん、酷い事を言ってましたね。あの脅しは犯罪ですよ。この間の事と言い、タダでは済まないと思ってくださいよ」  鏑木さんの声音から、怒りが滲み出ている。  海門を振り返って、 「GM、私は外で待っているタクシーで、真山さんを駅までお送りします。ちゃんと、電車に乗るところまで見届けますので、一ノ瀬さんをお願いします」 と言った。  鏑木さんの眼力は迫力がすごい。真山は蛇に睨まれたカエルのようにおとなしくなっていた。 「ああ、わかった。頼む」  そして、連行されるように、出て行った。 「大丈夫か?」  背中に隠れるように、小さく纏まっていた私を、海門が振り返る。 「…平気よ。これくらい」 「車が外にあったな。運転するから、キーを貸せ」 「お酒は?」 「一滴も呑んで無い」  歩き出そうとしたのだが、気が緩んだせいか、足がもつれてしまう。 「しょうがねえな」  体が、空に浮いた。  えっ?何、これ。お姫様抱っこってヤツ?  チョー恥ずかしいんですけど!  ってか、触ってるじゃん!    私の心の声が、聞こえたのか、 「ここは、家じゃないから、ノーカンな」 と言って、ニッと笑った。  まずい。心臓の音が、すごい事になってる。漫画だったら、『ドキドキ』って吹き出しが、周り中に付きまくっちゃう。  そのまま、車まで運ばれて、後部座席に乗せられた。  海門の運転で、マンションまで戻ってきた。  もう11時を過ぎていた。  キッチンに入った海門が、冷蔵庫から水のボトルを取り出し、 「ほら」 と言って、私に差し出した。  受け取って、その場で一口飲んだ。ホーっと深い息を吐く。  海門はソファーに体を預けて、こちらを見ていた。 「どうする?お前の母親か、美也子さんにでも来てもらうか?」 「いいえ。もう遅いし、心配かけたくないから…」 「…そうか」  海門が、ソファーの自分の横を叩く。 「じゃあ、来いよ」  ちょっと、びっくりした。そのまま動けない。  海門が私に向かって、手を伸ばす。 「…何よ」  右手の中指の先を、掴まれて、そっと引き寄せられる。  海門の隣にポトンと座る。  そのまま、抱えられた。 「…触らないんじゃ、なかったの?」 「今日は、特別ルール」  海門の胸に、頬をつける。心臓の音が聞こえる。  何故か、スーッと涙が一筋、頬を伝わる。 「大丈夫だ。二度とあんな目には遭わせないから」 「…うん。…海門」 「何だ?」 「…来てくれて、ありがとう」 「ああ…」  海門の心臓の音を聴く。一定のリズムで刻まれる、命の証。    昂った心が、静かになっていく。  そのまま、眠りに引き込まれていった。
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