憂鬱なお花見

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 助手席から窓の外を眺めると、川沿いは淡いピンクが続いている。等間隔に植えられた桜は、時折、枝を揺らしながら花びらを振り落としている。 「今年は咲くのが遅かったから、良いタイミングだったね」  先輩の須貝(すがい)さんは、左右を確認しながらゆっくりとハンドルを右に切った。 「去年は暖冬のせいで、開花が早くて。花見の時には半分くらい散ってたかなぁ。葉っぱも結構出てて」  公園の駐車場は狭く、満車で停められない。入口付近で車は停まり、私は歩道へ降りた。須貝さんに渡されたブルーシートを胸に抱え「どこに敷いたらいいですか?」と尋ねた。 「適当適当。桜の下ならどこでもいいよ」  お願いねと、須貝さんはまた車に乗って会社に戻った。社用車を見送ると、時計を見て大きくため息をついた。  今日は華金。もう場所取りをしてあるところもチラホラ。とりあえず空いている桜を目指して歩いた。  ブルーシートを桜の根元へ置いた。隣で場所取りをしている人に、一応声をかけた。 「すみません。ここ、場所取りしてもいいですか?」 「あ、いいですよ」  寝転がってスマホを触っていたお兄さんは、身体を起こして笑顔を見せた。ベージュの作業服を着ていて、ところどころ黒く汚れている。 「松本さんとこの新人さん?」
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