引越しから始まる恋

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「そうなんですか!ぜひ飲みたいです」 あぁ、嬉しさに引き込まれていく。 松原さん、優しすぎ。 どんどん期待が膨らんでしまう。 その気持ちを隠しながら、歩く。 あっという間に、私のマンションに着いた。 「送って下さって、ありがとうございました」 「渡辺さん、あの!」 少し慌てた様子で、松原さんが私を止める。 「あの、実は…」 「はい」 松原さんは、私を呼び止めたものの、何故か言葉を出しにくいようだ。 私を見たまま、口を一度開いたけど、固く閉じる。 「松原さん?」 「えっと、あの…」 私は次の言葉を待つ。 「あの……す、きなんだ。渡辺さんの事」 「え……」 「ごめん、こんな感じで言うつもりなかったんだけど、今日チラチラ見てる男たちみて、渡辺さんを他の奴にとられたくなくて」 私の心臓がドキドキと早くなってくる。 あまりにも脈が早くなってきてして、松原さんに聞こえてしまいそうだ。 「わ、私も実は、松原さんの事気になってて……でも、前の恋愛みたいにフラれるの怖くて言えませんでした」 「俺は、渡辺さんの事、大事にする。本当だよ、信じてほしい」 お互いに照れて言葉が出てこない。 本当に彼に心臓の音が聞こえてしまいそう。 「彼女になってくれる?」 「は、はい!」 松原さんは、赤くなりながら、にっこりと笑った。 「良かった!忘れ物を取りに行った時、あの時、一目惚れしたんだ」 「えっ、そ、そうだったんですか?」 「うん、本当に可愛いと思った」 私は口元を押さえて、これ以上赤くなった顔を見られないようにする。 「そんな事ないですよ…松原さんたら」 「フフ、そんなところも可愛いよ」 内心、ひやぁあと声を上げたいのを我慢して、私は下を向いた。 「ね、もし良かったら未華って呼んでいいかな?俺の事も(けい)って呼んでいいし」 「はい、いいですよ」 「敬語も使わなくていいし」 私は無言で頷く。 「彗って呼んでみて?」 「えと、け、彗、さん」 彼はクスッと笑う。 「さん、要らないし!……とりあえず今日は帰るね!また連絡する!」 松原さん、いや、彗さんは私に手を振り帰っていく。 私は彼が見えなくなるまで、その場で手を振ると、部屋へ帰った。 部屋にドアを閉めると、彗さんが彼になった実感が湧いてきて、1人で「わぁ!」と叫んだ。 勝手に脳裏に彼の笑顔が思い出される。 彗さんが!彼氏だなんて! 前の恋愛を思い出さない訳じゃなかったけれど。 ……もう新しい恋をしていいよね? 私はまだときめいている胸を押さえ、温かいお茶を作るためにキッチンへと行った。 *** 1年後。 進級してしばらく経った。 彗さんは、付き合い始めの頃と変わらず、優しくしてくれている。 1つ困った事と言えば、まだ居酒屋のバイトを続けているので、他の男性に口説かれないか心配している事だ。 確かに絡まれた事がないとはいえないけれど、「彗さんが思っているほど、私はモテないから」と言っても、整った眉毛を八の字にして、私に抱きついてくる。 まるで子供みたいだ。 そんなある日、彗さんが私に提案をしてきた。 「俺たち、同棲しない?」 「へ?」 一瞬、何を言われているのか分からなかった。 「同棲だよ、同棲。俺、未華ともっと一緒にいたい」 「同棲、かぁ。でも、私たちお互いにマンション近いのに?」 長いまつ毛の下から私を見て、「ダメ?」と言う。 そんな言い方されたら迷ってしまう。 「ダメじゃないけど……お金の事もあるし、考えさせて」 「お金は、未華と一緒に暮らしたくて、実はコツコツ貯めてきたんだ。だから、そんなに気にしないで。でも、ゆっくり考えていいから」 ギュウっと私を抱きしめてくる。 あぁ、幸せ。 彗さんが好き。 私も一緒にいたいけど、彼ばかりに負担はさせられない。 私もお金を貯めていかないと。 それから半年ほど経って、私たちは同棲を決めた。 2人で暮らせるように、少し広めの間取りのマンションを選んだ。 そして、彗さん、私の順に引っ越しをして、今日から、とうとう私たちの同棲が始まる。 引っ越しで知り合い、引越しでこれから愛を深める。 「次の引越しは結婚だね」 彗さんに言われて、私は小さく頷く。 まだまだそれは先だけど、このまま彼とずっと過ごして行ければいいなと、荷解きをしながら私は思った。
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