休日の公園

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 休日出勤で取引先に出向いた帰り、少し休みたい気持ちになって、先方の会社近くの公園に立ち寄った。  空いているペンチに座り、公園に入る前に買った缶コーヒーに口をつける。  ぽかぽか陽気の日曜の午後。公園にはたくさんの家族連れがいて、家族単位、あるいは他の家族と混ざり合って遊んでいる。  そいつらが、時折俺の方に視線を向けてくるんだ。  ああ確かに、休みの日にスーツ姿のオジサンは公園には場違いだろうよ。しかも、俺はこの近所の人間じゃないから、さぞや怪しく見えるだろうな。  でもここは公園。誰が入ってもいい公共の施設だ。缶コーヒー一本飲んだら立ち去るから、それまで少し休ませてくれ。  それにしても、周りがやたらと俺を見てくるな。そんなに俺はここに不似合いか?  この近辺て、そうまで治安にうるさい地区なのか?  そんなことを考えた時、ふと思い出した。  そういえば何年か前、ガス管の工事ミスが原因で、公園が一つ吹っ飛ぶっていう大事件があったよな。あれは確か、今日伺った取引先の近くだった筈。  もしやあの事故があったのはここの公園か? いや、そんな訳ないか。だって、確か当時のニュースでは、死傷者が多数出たその場所には慰霊碑が建てられ、遺族がお参りに訪れるだけの土地になった筈だ。  あれこれ考えていたら、周りの家族が総て動きを止め、俺を見ていることに気がついた。  彼らが一斉に向けてくる視線。それを見た瞬間、俺は、やはりここはあの公園だと確信した。  鎮魂の慰霊碑が建てられても、いきなりの死についていけず、この世に未練を残した者達。  彼らの生前最期の瞬間がここに幻の公園を生み出し、俺は何かの弾みでそこに足を踏み入れてしまったのだ。  向けられる視線から、今この場で唯一生きている俺への強い羨望を感じる。それが嫉妬になり、憎悪へと形を変えたとしたら、俺は彼らと同じ側の住人になるだろう。  公園の出入り口まで五メートルばかり。幸いにも、そこ向かうルート上には誰もいない。  コーヒーの缶を手に、いかにもだらりと休んでいる。そんな姿で何も気づかぬふりを装いながら、俺は僅かに腰を浮かし、足に力を入れて、逃げ出すための体勢を整えた。 休日の公園…完
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