別にどうにもならなイケオジ

2/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 ああ、あと数日ですれ違えなくなる。ワタシはもうすぐこの街を離れると決めたから。  あいつの知らない遠い場所へ行かなければ。追われる前に、逃げなければ。  決して知り合うことなんかないであろうイケオジを毎朝十秒拝むために、いつまでもとどまっているわけにはいかない。  あいつは、ワタシの小さな楽しみすら奪う奴。あいつを思い出すモノは全部この街で棄てる。  アクセサリーなんて、婚約指輪なんて、もらわなくて良かった。どうせ買取に持ってっても大した額にはなるまい。 「あんた、良かったな。」 義母になる予定だったあいつの母親が、ワタシがいるのも忘れて思わず口を滑らせたのは、ワタシが 「金属アレルギーだから、無理に指輪を用意しなくても良い。」 と言ったことに対してあいつに言ったこと。  人って、無意識の時に本音が出るからね。  金属アレルギーでも着けられる指輪ありますけど。 何かにつけて 「お袋が」 ってうるせぇ。そんなにお袋が良ければお袋と結婚しろ、気持ち悪い。   スマホの電話帳から、あいつに関わるものはすべて消した。  この間着信拒否するのを忘れて、電話が掛かってきたんだった。無視したけど。  ワタシはとっくに終わったはずでいたのに、あいつはまた一緒に暮らしたいと言う。  好きでもない癖にそんなことを言うのは、単に世間体を気にしているから。  結局自分のことしか考えていない。  メールも受信拒否にしたから、もう来ないはず。  ここを去って、全部忘れる。  次の街で、拝めるイケオジ見つかるかな。  頼むから、誰も邪魔しないでほしい。  この街にいるのも残り二週間。  あと何回あのイケオジとすれ違うのかな。    名前も歳も職業も知らないまま。  知らなくていい。知らない方が良い。  どうせ、次の街で新しいイケオジを見付けたら忘れる。  奥さんと仲良くね。  わたしには一生掛かっても掴めないものを沢山得たに違いないあなたに、ますますの御多幸をお祈りしてやるよ。  今まで勝手に拝ませてくれてありがとさん。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!