さよなら白い嘘

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 片方の運動靴が揺れていた。  ひっくり返って裏を向いた、泥だらけの。その先に見えるのは、……元はグリーンだったか、黒ずんだTシャツ? 肩の部分が無残に破れている。どちらも、子供用の大きさのようだ。  揺れているのは、俺の足元だった。だから、そんなのがおっかなく見える。  不安定な木造の、長々と続く、いかにもボロな吊り橋。下は、どのくらいの高さがあるのか、急流の音がかすかに聞こえるだけだ。  いや、壊れるわけがあるものか。ここは、日本有数の財産家の持ち物である山だ。管理は行き届いているはず。  そして俺は、その娘の婚約者なのだから。  
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