私の手記

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 後に残されたものは、いくつかの、走り書き。  ──国王は生ける屍となった。 それまでとは違う小さな紙片に殴り書かれた、文字とも、記号ともつかない血文字のみ。  ──父は、ブレーメニィ卿は罪を着せられ斬首された。  ──『魔女に誑された』と言い遺した。  不揃いに破り捨てられた紙に踊る、赤黒い色。時に断面をはみ出しながら、叫ぶように、幾つも、幾つも。  ──ブレーメニィ卿の遺児が、世を堕落と停滞へと導いた。  ──彼女は、私は『時の魔女』と忌み嫌われた。  ──私は知らない。何も知らない。でも。  幾つも。幾つも。泣き叫ぶように幾つも。  ──私が、人々を不幸せにしたんだ。  そんな、最後の言葉まで。言葉の断片が机を一つ埋め尽くしていた。  最後に。  一枚だけ、今までのどれとも様相の違う紙片があった。黒いペンでぐちゃぐちゃにぐちゃぐちゃに塗り潰したような、黒線の水溜り。奥に書かれた文字は読めない。ぐちゃぐちゃに、隠されている。  たった一行。今までのどの文字よりも丁寧に記されたその行を除いて。 『時の魔術と、私を、ここに封ずる』  塗り潰し損ねたように、薄い黒塗りの奥。最後の言葉は、そう記されていた。  そして、そんな物語の終わりを机の上に戻してから。  独り、『彼女』は部屋を後にする。
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