三万円引きにテンションが上がる。

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三万円引きにテンションが上がる。

 ソファに寝転びスマホをいじっていた先輩が、お、と声を上げた。足を上げ、勢いをつけて起き上がる。そうして見るとはなしにパソコンを眺めている俺のところへ小走りにやって来た。 「見ろ、田中君。これ」 「何スか」  ちなみに夫婦なので先輩も田中なのだが、俺も結婚後、変わらず先輩を先輩と呼んでいるので田中君と呼ばれることにツッコミは入れなくなった。それはさておき、差し出されたスマホを覗き込む。 『引っ越しキャンペーン開催中! 最大、三万円引き!』  そんな宣伝文句と、黄色や赤で派手に彩色された広告が飛び込んでくる。引っ越し業者のチラシらしい。 「凄くね? 三万円も浮くんだぜ。この家もそろそろ更新が切れるっしょ。いい機会だから引っ越さんか」  確かに、結婚と同時に今のアパートに住み始めて来月で丸四年が経つ。引っ越すなら丁度いい時期だ。 「そうですねぇ」 「三万あればエッチなお店に行けるぞ」 「……行くんですか?」 「いや、君が」 「貴女がいるのに行くわけないでしょ」  先輩は途端に黙り込んだ。相変わらず、素直な言葉には弱いんだから。可愛いなぁ。 「しかし引っ越すって言っても新しい物件を決めないと動きようがないですよ。目星、ついてます?」 「うんにゃ」 「……何処へ引っ越すつもりだったのですか?」 「それはこれから君と決めればよかろうもん」  まあ二人で暮らす家だもんな、わかりました、と小さく頷く。 「じゃあ、まあ調べてみますか」
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