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…まったくバカバカしい…
実に、バカバカしい…
どうして、私とナオキが、五井の内紛に巻き込まれなきゃ、ならないのか?
今さらながら、思った…
思ったのだ…
そして、そんなことを、思っていると、今さらながら、このマミさんが、私に警告をしたことを、思い出した…
…これ以上、五井に関わっては、ダメ…
…寿さんが、傷つく…
と、私に警告をしたことを、思い出した…
つまりは、私とナオキが、傷つくことを、あのとき、マミさんは、知っていたわけだ…
だから、あのとき、警告した…
そういうことだ…
が、
同時に、おそらく、その警告は、意味がないことを、マミさんは、理解していたに違いない…
FK興産の株を買収することは、おそらく、決定事項…
すでに、決まっていたことに、違いないからだ…
だから、ナオキは、ともかく、私が、傷つくことは、わかっていたはずだ…
私が落胆することを、わかっていたはずだ…
そして、そこまで、考えると、今度は、ナオキの目的が、見えてきた…
なぜ、私をFK興産の非常勤の取締役にしたのか、見えてきた…
一つには、五井とFK興産を共同経営する前に、私を取締役にしたかった…
なぜなら、五井に半分、株を握られれば、ナオキは、思うように、人事ができないからだ…
だから、五井と共同経営する前に、私を、非常勤の取締役にした…
そして、それ以上の目的は、私にFK興産を、守らせること…
それに尽きるのではないか?
そう、気付いた…
如何に創業社長といえども、五井と共同経営する立場では、ナオキは、今までのように、会社で好き勝手は、できない…
とりわけ、人事をいじることは、できない…
だから、五井と共同経営する前に、私を穂常勤の取締役にした…
あのとき、ナオキは、私を非常勤の取締役にしたのは、私に金をやるためだと、言った…
無職になった私に金を与えるためだと、言った…
非常勤の取締役にすれば、給与を与えることが、できるからだ…
が、
実は、裏の目的があった…
そのことに、気付いた…
気付いたのだ…
同時に、今さらだが、ナオキが、どこにいるのか?
気になった…
そして、ナオキの居場所は、当然、このマミさんは、知っているに違いない…
だから、それを、マミさんに聞きたくなった…
当たり前のことだ…
「…マミさん…」
「…なに、寿さん…」
「…マミさんは、当然、ナオキの居場所を知っていますよね…」
「…藤原さんの居所?…」
「…そうです…」
「…知っているわ…」
「…どこですか?…」
「…それは…」
「…それは…」
「…言えない…ごめんなさい…寿さん…」
「…どうして、言えないんですか?…」
「…五井長井家…」
「…五井長井家が、どうしたんですか?…」
「…五井長井家が、藤原さんに接触すると、困る…」
「…五井長井家が接触?…」
「…今も言ったように、五井長井家もまた、藤原さんに接触して、FK興産の株を買おうとした…だから、それを、知った伸明さんや、和子叔母さまが、先んじて…」
後は、言わなくても、わかった…
要するに、五井長井家が、ナオキに接触して、FK興産の株を買収しようとしたから、急いで、伸明も和子も、ナオキに接触して、株を買い取った…
だから、今、ナオキの居場所がわかれば、五井長井家の人間が、ナオキに接触しかねない…
それを、伸明も和子も、恐れたに違いなかった…
なにしろ、ナオキは、まだFK興産の株を半分持っている…
それを、五井長井家が、買い取るとでも、言い出せば、どうなるか?
それを恐れたに違いない…
もちろん、ナオキが、自分の持つ株を、そんなに簡単に売るか、どうかは、わからない…
ただ、業績が赤字で、株を半分売却するほど、経営が追い詰められた状態だ…
ナオキが、FK興産の経営に嫌気がさして、自分の保有する株を全部売却しても、おかしくはない…
が、
もし、そうなれば、どうなるか?
FK興産の株を五井本家と、五井長井家が、半分ずつ所有することになる…
当然、そんな事態は、本家は免れたいに違いない…
本家=伸明と和子は、避けたいに違いない…
そして、もし、そんなことになれば、五井長井家が、力をつける…
その結果、五井の順列が、崩れる…
そして、そうなれば、さっき、マミさんが、言ったように、
「…最悪、五井が崩壊する…」
そういうことだろう…
ヤクザでも、国家でも、これは、同じ…
昔の日本の戦国時代でいえば、下剋上…
つまり、身分の低い者が、身分の高い者より、力をつける…
その結果、パワーバランスが、崩れて、それまで、身分の低かった者が、身分の高かった者に代わって、その地位に就く…
そういうことだ…
そして、五井に限って言えば、それほどでもないが、それでも、五井の中にあって、本家と東西南北の4家は、別格…
五井十三家の中にあって、別格だ…
だから、それ以外の格下の8家が、本家や東西南北の4家と肩を並べるようなことになれば、一大事…
まさに、一大事だ…
五井の序列が、崩れかねないからだ…
身分の下の者が、身分の上の者と、同等になりかねないからだ…
そうすれば、秩序が、乱れる…
五井家内のパワーバランスが、崩れたことにより、五井家が崩壊する可能性がある…
だから、それを、伸明も和子も恐れたに違いなかった…
私は、マミさんの電話で、ようやく、事態が、飲み込めた…
だから、ホッとした…
胸のつかえが、取れたようで、ホッとした…
もちろん、マミさんの言うことを、全面的に信じたわけでは、決してない…
が、
今、マミさんの言ったことは、納得できる…
納得できるからだ…
どんな話も、納得できない話に同意は、できない…
当たり前の話だ…
しかしながら、ユリコの説明とは、違う…
今、マミさんが言ったこととは、全然、違う…
が、
どちらも、納得できる…
わけのわからない話ではない…
だから、どちらが、正しいか?
あるいは、
どちらが、ウソを言っているか、わからないが、それでも、どちらも、納得できる話だ…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
だからこそ、困る…
どちらが、ウソを言っているか、わからないから、困る…
マミさんとは、気も合うし、信用できる…
真逆に、ユリコとは、気も合わないし、信用もできない…
が、
それと、これとは、別…
私にとって、別だった…
気が合って、信用できるからと、いって、いつも、信用しているわけではない…
真逆に、気も合わないし、信用できない相手でも、ホントのことを、言っている可能性はあるからだ…
だから、悩む…
どっちが、ホントだか、悩む…
そういうことだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…ごめんなさい…寿さん…」
と、マミさんが、電話の向こう側から、私に詫びた…
「…ホントに、ごめんなさい…」
と、続けた…
が、
いつまでも、マミさんに謝らせるわけには、いかない…
だから、
「…マミさんに、謝ってもらうものじゃ、ないですよ…」
と、言った…
「…マミさんが、FK興産の株を、買収したわけじゃないし、それに、FK興産の業績が、悪いのも、ホントだろうし…」
私は、続けた…
が、
それにも、かかわらず、
「…ホントにごめんなさい…」
と、マミさんが、続けた…
もはや、私は、どう言って、いいか、わからなかった…
マミさんは、なにを言っても、謝り続ける…
これは、困った…
実に、困った…
と、
そのときだった…
ふと、閃いた…
「…マミさん…誰か、来たみたいですから…これで…」
と、慌てて、言った…
もちろん、ウソだ…
誰も、来ていない…
インターフォンのブザーも鳴っていない…
が、
姿が、見えないのが、いい…
実に、いい…
ウソがつけるからだ…
だから、実に、いい…
電話だから、いい…
もしかしたら、マミさんも、私が、ウソをついていることに、気付いたかも、しれない…
マミさんが、慌てた様子で、
「…じゃ、これで…」
「…ハイ…すいません…」
と、言って、慌てて、私は、電話を切った…
正直、ホッとした…
マミさんには、すまないが、ホッとした…
いつまでも、マミさんに、謝られても、困る…
だから、ホッとした…
同時に、このマミさんの電話で、騒動の遠因が、見えてきた気がした…
もちろん、マミさんの言うことを、全面的に、信じているわけでは、決してない…
が、
まったくのウソを言うとは、思えない…
が、
しかしながら、マミさんは、五井家の人間…
いかに、私と仲が良くても、私と五井家のどちらの側に着くかと、問われれば、間違いなく、五井の側に着くに、決まっている…
当たり前のことだ…
だから、五井にとって、不利なことは、私に伝えるはずがない…
いかに、仲が良くても、私に伝えるはずが、ない…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
だからと言って、マミさんを嫌いなわけでも、なんでもない…
それは、それ…
これは、これ…
仕方がないことだからだ…
いかに、仲が良くても、できないことは、できない…
超えては、ならない一線…
あるいは、
超えられない一線があるからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
<続く>
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