事件発生

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事件発生

 県立下南<かみなみ>高校二年の吉永美優は体育祭の開催日が雨になってくれることを願っていた。  あんな身体を動かし、汗だくになり、クラスの結束を固め、友情とスポーツマンシップを図る行事ほど目障りなものはない。  そして、それに伴い、予行演習なるものを事前に開催する念の入れよう。  今日も空は憎たらしいほどの快晴。太陽が容赦なく降り注ぐ。  打ち水をした後のグラウンドは、始めこそ涼しいが、後に生徒たちの動きによって、いつの間にか熱に変わる。  耳障りな定番の曲「天国と地獄」が流され、生徒たちは本番に向けた調整をする。  美優も仕方なく、予行演習に参加。半ば強制的に参加させられ、日に焼けることを覚悟しての参加は、もはや拷問だ。  その日も空は青く、澄み切っていた。血なまぐさい事件が起こるとは言えないほどの空模様。そんな中、ある一人の生徒が亡くなった。それも鈍器のようなもので殴られて、息を引き取った。十七年という短い生涯を終えた彼女は下南高校でも一目置かれるほどの優等生。早峰香里だった。  放送部部長でもあった早峰香里は背後から侵入者に部屋に入られ、不意打ちの如く、後頭部を殴打された。  死亡時刻は6月2日、午前11時から12時半の間。  その間、下南高校の全校生徒は体育祭の予行演習でグラウンドに出ていた。だから、保健室の保健師と休憩中の生徒を除いて、校内には誰もいなかった。  となると、保健師が一番、犯行に近い人物になるが、警察はそんな短絡的なことは考えない。むしろ、保健室で休憩していたもう一人の生徒、木村香苗に注目していた。
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