第一話

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「なんだか(いや)な内容の歌詞……」 「うん、気持ちのいい歌詞ではないね」  ハルは同意してから、「それとね」と続けた。 「僕も驚いたのだけれど、歌に出てくる座敷牢は、隣の家にあったものらしい」  咲希たちの新しい住まいの隣は、空き家になっている古い民家だ。かごめかごめの歌詞に出てくる籠、つまり座敷牢は、隣の民家に設けられていたものとのこと。 「かごめかごめの歌は、隣の家が発祥地なんだ。本当に驚いた」  だが、さすがにそれは信じられなかった。 「嘘ばっかり」  咲希が断言してみせると、ハルは切れ長の目を、さらに細めて微笑んだ。 「バレたか。ほら、今日はエイプリルフールだからさ。嘘をついてみようと思って」 「あ、そっか、今日は四月一日だね」 「うん、エイプリルフールだよ」 「すっかり忘れてた」 「でも、あれだね、エイプリルフールの嘘は楽しいけれど、僕たちの嘘は苦しくて悲しいね」 「ん? どういう意味?」  しかし、ハルはそれに答えず、「ところで」と話を変えた。 「かごめかごめに出てくる女の人は、なぜ座敷牢に閉じこめられたと思う?」 「さあ……」と咲希は首を傾げた。「どうして?」 「女の人だったのに、女の人を愛したから」 「え……」 「座敷牢は主に精神に問題のある人を閉じこめるもの。昔のことだからだ、同性愛者を精神異常者とみなしたみたいだね」  ハルはなんでもなさそうに言ったが、咲希には含みがあるように聞こえた。  さらにハルはこうも言った。 「そういえば、由乃(よしの)さんは元気にしてる?」  由乃は咲希の幼馴染なのだが、なぜここでその名前をだしたのか。それも意図的のように感じた。  ――女の人だったのに、女の人を愛したから。  もしかしたらハルは気づいているのかもしれない。咲希の普通ではない部分を。  だが、気づいているという確証もないのだから、悟られていない(てい)で応じておくべきだ。 「うん、元気にしてるよ」  そう伝えながら咲希は思った。  やっぱりハルと由乃はよく似ている。ふたりとも色が白くて小柄で、どことなく儚い印象がある。  
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