第三章 消える鯨 三

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 それは、鳥や蛇の場合ではないのだろうか。  有島は俺を肩に乗せて歩いていたが、自身の見た目の良さもあってか、振り返る人が多かった。それも、老若男女が同比率で振り返っていて、通り過ぎてからヒソヒソと呟き合っていた。 「あのマフラー、生きているみたい」 「マフラーと目が合った!」  マフラーとは目が合わないだろう。でも、俺とばっちり目が合った。 「生き物なのかな???可愛い!!毛玉みたい」 「あ、笑った!!!目もオレンジで、パッチリしていて大きい!それに笑うと、天使!何の種類なのだろう……」 「可愛い!!!!!大きな目をパチパチとさせて、不思議そうにこっちを見ている!!」  不思議そうに見ているのではない。見るなと威嚇していたのだ。 「可愛い!!!!オレンジが太陽みたい!サルなのかな……不安そうに震えていて……抱きしめたい!!!!!」 「どれ?あ!本当だ!!!小さい!!可愛い!!」  小さくない。それに震えているのではなく、バランスを取っているだけだ。 「……………………目立っていませんか?」  目立っているのは、有島のせいだろう。俺は何もしていない。 「まあ、いいですが……」 「いいのか?!!」  このサルは、新種ではなく珍種だ。図鑑でも、ネットでも出ていない。だから、そっとしておいて欲しい。  そして駅前まで歩くと、有島が荷物を持っていた事に気が付いた。 「有島さん、そのキャリーバックはどうしました???」 「道原君から借りました」  キャリーバックは必要無いと言いたいが、今も通りすがりの女性から、俺に首輪が無いので、逃げないのかと質問されていた。 「首輪を買いますか?」 「絶対に嫌だ!」  そして誤魔化すように、有島が俺の首にバンダナを巻いていた。 「サルは首輪が必要なのか?」 「分かりません」  そして電車に乗ろうとしたのだが、駅員に止められてしまった。 「キャリーバックに入れています。切符も買いました」 「サルは不可です」  俺は犬だと主張してみたが、すると重さでNGになったので納得した。 「重さならいいのですか?」 「仕方ない」
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