第三章 消える鯨 三

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 そこで、タクシーを見つけようとしたが、時間帯が悪かったのか一台も無かった。 「どこまで移動するのだ?」  有島は通常社会で部屋を借りていて、普通の暮らしを偽装しているらしい。 「私の家、食べ物が無いので買ってきます」 「今、食べただろう?」  有島は、自分がマークされている事に気付いていて、俺を置いて一人でコンビニに入った。 「有島!!キャリーバックに入れるな!!!ベンチに置き去りにするな!!」  キャリーバックに入れられているというのが、屈辱的だ。そして、当たり前のように、黒いミニバンがコンビニの駐車場に入ると、俺を持ち上げて積み込んでいた。 「こら、持ち上げるな!」 「静かにしろ!」  有島はキャリーバックの鍵をしっかりと掛けていた。だから、俺は外に出られない。だが、逆に外からも俺に触れる事ができない。 「あれ??言葉が聞こえたような……」 「どこかにマイクがあるのか?」  男は俺のキャリーバックをクルクルと回し、付いていた盗聴器などを外して、他の車に投げていた。 「回すな!落とすな!」 「……落としていません。どこにマイクがある???」  これは、マイクではなく肉声だ。 「男の方は?」 「サルを取ったと言ったら、素直に付いてきました」  車でやってきた男達は三人で、一人はずっと運転席で待機していた。そして、車に動物を乗せる事が嫌なのか、俺を見て舌打ちしていた。  そして、体格の良い男が、コンビニから有島を連れて来ると、後部座席に乗せた。  そもそも、大切なサルだったならば、ベンチに置き去りにしない。それが分かっていない所で、このメンバーは誘拐には向いていない。それに、証拠を残し過ぎている。 「こいつで間違いないですね。ほら、賞金が掛かっている顔と同じだ」 「そうだな」  どうも、有島には賞金が掛けられ、多分、複数の誘拐犯が狙っていた。そして、この三人が動いたのは、プロではないからだ。賞金につられて動いているので、防犯カメラにもバッチリ映ってしまっている。 「誘拐?」 「俺達は、誘拐していない。頼まれて、送迎するだけだ」  頼まれた行為でも、犯罪は犯罪だ。こういう連中は、それが分かっていない。そして、後部座席に乗り込んだ若い男は、サルと会話してしまったと、悩んでいた。 「サルと人生相談も出来るぞ」 「嫌だ!!」
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