虹色の明日

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 「なぁ…大丈夫?」   しばらくメソメソしている私に、柏谷くんが遠慮がちに話しかけてきた。  「あ、うん。ゴメン…」  私は鞄からティッシュを出して、涙と鼻水を拭う。  「泣き虫なのは相変わらずなんだな」と、柏谷くんがクククと笑う。  「むしろ、年取ってパワーアップしたかも」と、私もフフっと笑った。    「電話は…旦那さん?」  「ううん、息子。もう大学生だよ…旦那とはとっくの昔に別れて、シングルマザーってやつ」  私の返答に、柏谷くんは申し訳なさそうな顔をした。だが、それも一瞬のことで、「じゃあ、食事に誘ってもいいわけだ?」と悪戯に笑った。  私は驚いて柏谷くんの顔をまじまじと見た。  柏谷くんは真っすぐに私を見つめ返す。  ドクン…  少しふくよかになったけれど、素敵に年を重ねた柏谷くんとの再会に、私は彼に恋をしていたあの頃を思い出して、胸の辺りがこそばゆくなる。    「こんなおばさんでも、二人で食事に行ったら奥様に叱られるんじゃない?」  私も悪戯に笑ってそう返す。  こんなやり取りなんて…探りを入れるなんて…いつぶりのこと?  心臓が早鐘を打つ。  「俺も、今フリーだよ…」  私たちはフフフと照れ笑いをして、外を眺めた。  雨粒のついた窓ガラスの向こう、山の奥にうっすらと虹がかかっていた。  「あ、虹…」  「本当だ」  私たちは、キラキラと雨粒の輝く世界を黙って眺めた。  一星は、私が私の人生を歩むことを許してくれるだろうか…  いや、許してもらおう。  一度きりの人生、私にだって楽しむ権利はあるよね?    ねぇ一星、どっちが早く恋人ができるか競争しようか…  え?フライング?  どうかな、これくらいのハンデあってもいいんじゃないかな…  瞬きをすれば見失ってしまいそうな虹を、私は清々しい気持ちで眺めた。  「じゃあ、いつにする?」
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