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無力な僕ら
「また、明日ね。」
薄水色の空を背に、公園のジャングルジムの一番上に座った彼女が優しく微笑む。
胸元あたりで切り揃えられた艶やかな黒髪が、そよ風に吹かれて靡く。
彼女はジャングルジム、僕はブランコ。
それが僕らの定位置だった。
彼女は、眉目秀麗、成績優秀、文武両道で人望も厚く、誰もが憧れる人間だった。
主席で卒業生代表挨拶をする姿は、学生生活をやり切った満足感が漂っていた。
「また、明日。」
僕も見上げて微笑む。
その明日が来ないことは、お互い暗黙の了解だった。
無言で公園の出入り口へと向かう。
まだ蕾の桜の木が2本、両脇に立っており、無力な僕らの門出を表しているようだった。
彼女は右へ。僕は左へと歩き始めた。
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