【短編小説】俺は負けない

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【短編小説】俺は負けない

 ここは北海道の田舎町。若い俺はやる事がない。あるとしたら、性行為くらい。彼女はいないので、街中でナンパした女とやっている。女の方から求めてくる場合もある。俺の名前は、下川龍太郎(しもかわりゅうたろう)、21歳。茶髪のオールバック。鍛えているので筋肉が隆々としている。身長は高め。 ムラムラしてきたので、ナンパした女に電話をした。 「もしもし、邦子?」 『うん、一昨日以来だね』 「今、暇か?」 『暇っちゃ、暇だよ』 「じゃあ、今から来いよ」 『えー』 「なんだよ! 俺の事嫌いになったのか!?」  つい、大きな声を出してしまった。 『冗談だよ、冗談。キレないでよ。怖いなぁ』 「俺は冗談が通じないんだ!」 『開き直るし』 「俺が邦子を呼ぶ理由はやりたいからだ! 可愛がってやるからさ。いいだろ?」 『あたしもさっきからムラムラしていたの』  俺は股間が固くなるのを自覚した。邦子は来るというので乱れているベッドを直した。 30分くらいして彼女はやって来た。俺の部屋のチャイムが鳴った。玄関に行って、 「邦子かー?」  と声をかけた。 「はーい! あたしだよー」  ドアを開けてやり、邦子が入って来た。 「この前ぶりだね」 「そうだな」 「最近、やってなくて。あたし、ムラムラしてたのよ」 「じゃあ、ちょうどいいな! ベッドの上に行ってくれ」 『え、シャワー浴びないの?』 「いいだろ、めんどくせー」 『えー、じゃあ、あたしだけでも浴びて来る』 「いいって、浴びなくて。あ、一緒に浴びるか? それならいいぞ」  俺は思わずニヤけてしまった。 『龍太郎、ニヤニヤしてる。やらしー』 「ああ! 俺はいやらしいんだ!!」 『また開き直った。さっきからそればっかり。自分に自信あるのね。あたしとは大違い』 「そりゃ、自信あるさ! 何だ、邦子は自信ないのか。いい女なのに」 『そう言ってくれると嬉しい。いろいろあったからね』 「そうなのか。その話しはやった後、聞かせてくれ」 『聞いてくれるの? 暗い話しだけど』 「何でもいいよ、話したいなら聞くよ」 『優しいのね』 「そうか? 普通だろ」 『ありがとう』  俺はハハハと笑った。2人で脱衣所で服やズボン、下着を脱いだ。俺は洗濯してあるものを用意した。でも、邦子の分がない。 「脱いだ服をまた着るか?」 『下着だけ貸して欲しい、柄パン?』 「そうだ。洗ったやつでよければ。新しいのは買ってないんだ」 『いやあ、全然洗濯したものでいいよ。そんなに気遣わないで。らしくないよ』  そう言って笑っている。可愛いじゃないか! と強く思った。    早速、俺の引き出しの中から綺麗めな下着を取り、邦子に渡した。彼女は俺の下着の匂いを嗅いでいる。 「邦子、お前何やってるんだよ。変態か?」 「うん、変態だよ!」  また、2人して大笑いした。俺は思った、こいつと付き合ったら楽しいかも、と。邦子に交際を申し込むと、彼女はフリーでいろんな男と遊びたいという理由で断られた。やはり、セックスフレンドのままか。今は。でも、いずれ俺の女にしてやる。  今は午前3時頃。最近、なぜかこのくらいの時間に目が覚める。仕事がある日はまた寝るが、休みの日は起きて缶ビールを2~3本呑む。ちなみに今日の仕事は日曜日なので休みだ。なので、いつものように缶ビールを呑もうと冷蔵庫を開けるとなかった。隣では昨夜、邦子を散々、玩具にしてやったから疲れたのだろう、眠っている。畜生! 昨日の夜に全部呑んじまったか。仕方ない買いに行くか。邦子は一応、連れて行こう。何度も彼女の体を揺さぶるとようやく起きた。 「今……、何時?」 「3過ぎだ」 「え?」  邦子は時間帯に驚いたのか、目を開けた。 「朝の3時だぞ」 と言うと、 「何だ、びっくりした。バイトに遅れたと思った」  邦子のバイトは午後2時から午後8時までの勤務。  彼女は病気を患っているらしい。詳しくは話を聞いてないが肝臓の病気らしい。邦子はお酒が大好きで、毎日缶ビールや缶チューハイを呑んでいる。まだ、未成年だがまあいいか。  余計なことは言わない主義。ヤリ友と言えども、友達だから大切にしないと。俺の意外な一面。まあ、目的はお互いヤルことだ。たまに金を出してヤル場合もある。と言っても1万とかだけど。ソープランドみたいに高額ならやらないでソープランドに行く。  たまに会社の同僚と遊ぶかな。18歳の男子だ。たまにカラオケにでも行きたい。邦子はどうしよう。行くかどうか訊いてみるか。そいつの名前は山口健(やまぐちけん)という。  高校を中退し、この会社に入った。中退した理由は、喧嘩らしい。しかも、1人の女を巡って。電話をしてみるか。床に置いてあるスマホをを手に取り、電話をした。7~8回しつこく呼び出し音を鳴らした。そして、ようやく繋がった。 「もしもし、山口か」 『うん、そうだよ』 「今、暇か?」 『暇だよ。だから、昼寝でもしようかと思ってた』 「寝るなら、カラオケに付きあえ」 『カラオケかぁ、あんまり気乗りしないけど行くかな』 「田舎はやることがないからなぁ、遊ぶところも少ないし」 『そうだね、都会に引っ越せばいいけど、面倒で』 「都会かー、札幌か?」 『まあ、そんなとこ』 「確かにめんどい。でも、今より楽しくなるんじゃないか」 『行くならおれも一緒に行きたい。免許ないからなくても良いところに就職したい。できれば龍太郎さんと同じところがいいな』 「そうか。札幌、行くか?」 『行っちゃう?』 「行くならまずは俺が先に行くわ』 『そうだね、そこで免許なくてもいいか訊いて欲しい』 「おお。お安い御用だ。住むところも探さないといけないしな」 『そうだね』 「札幌のハローワークで車の免許なくても採用してもらえる会社あるかどうか訊いてやるよ。何がなんでも一緒の会社じゃなくてもいいだろ?」 『まあ、いいけど』  邦子にも札幌に住むことを話さないと。どんな反応をするだろう。  まずは、カラオケに行く。邦子に声をかけた。 「邦子、カラオケ行くけどお前も行くか?」  彼女はまだ寝ている。もう午前11時だというのに。どれだけ疲れたんだ。 「ん……、どこ行くって……?」  完全に寝ぼけている。 「カラオケだ! 俺の職場の同僚もいるけど」  そう言った途端、目を開けた。 「カラオケ!? 行く!」 「それと話したいことがあるんだ。カラオケ終わったら話すわ」  俺と邦子は支度を始めた。シャワーを浴び、俺は財布と鍵、スマホと煙草を持った。邦子は財布とスマホ、煙草を持った。 「よし! 行くぞ! 友達も乗せて行くから。邦子はいつものように助手席に乗ってくれ」 「わかったー」  一応、<今から行く>という旨をメールで送った。俺がメールを送るのは珍しい。短文ならメールでもいい。すぐにメールはきた。 <わかった、待ってる>と。  俺の車はブルーで普通車。山口の住んでいるアパートに着いた。山口と邦子が会うのは初めてだ。彼が後部座席に乗って、 「龍太郎さんの彼女?」  と訊いてきた。俺は、 「まあ、そんなとこだ」  と適当に答えた。本当はセックスフレンドだけれど。いちいち本当のことを言う必要もないだろう。説明するのも面倒くさいし。  たまに来るカラオケボックスに着いた。  3時間3人で熱唱した。俺はストレスも解消されてスッキリした。と言っても、昨夜、邦子を玩具にしたからそんなにストレスは溜まってなかったが。邦子は何も言わず、山口は歌っている内にその気になったようで、 「あー! 歌ったー!」  と満足気だ。俺は彼に言った。 「な? 来て良かっただろ?」  頷きながら 「うん、良かった」 と言っている。  俺は車の中で邦子に打ち明けた。 「邦子、話しなんだけど俺と山口は札幌に住もうと思ってるんだ。邦子はこの町にのこるか?」 「え! 札幌!? 住みたーい! でも、親に言わないと。一応、未成年者だし」 「じゃあ、今から実家に送るから、親と話してくれ。俺としては、一緒に行って欲しい」  そのまま俺は邦子の実家に送った。 「話し終わったらどうする? 実家にいるか? それとも俺のアパートに来るか?」 「龍太郎の部屋に戻るよ」 「わかった、じゃあ、連絡くれ。親と喧嘩するなよ」 「それはわかんないけどね」  彼女は苦笑いを浮かべている。  俺はとりあえず山口をアパートまで送った。俺も自分のアパートに戻った。俺には報告する相手がいない。両親と妹がいたが、数年前に事故死した。だから、天涯孤独だ。内心、寂しいと思うときはごく稀にある。でも、その気持ちを友人に言ったことはない。言ったら負けだと思っているから。だから、俺は負けない。絶対に。人にも自分にも。  夜になり、メールが邦子から来た。本文は、 <ごめん、札幌に行けない。両親に猛反対されてさ。実はあたし、持病があってね。その心配をしているみたいで。本当は行きたいんだけどね> <わかった、そういう事情があるなら仕方ないな>  邦子からもう1通メールがきた。 <それとね、今日は実家にいなくちゃいけなくなった。親にたまには家に居ろ! と強く言われてね> <そうか、わかったよ>  やはり俺は独りだ。まあ、その方が気楽だけれど。友達と言っても、会社の人間だから深い付き合いはしていない。でも、俺はそんな状況にも負けない! 札幌で良い巡り合いがあればいいが。そしたら、もっと強くなれる筈だ。                                   了                                      
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