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その後、五井による、FK興産の買収は、世間で、話題になったが、長くは、続かなかった…
それは、そうだろう…
FK興産は、授業員千人程度の会社…
そんな会社の買収を、いつまでも、世間が、話題にするはずがない…
FK興産の買収が、世間で、話題になった理由は、二つ…
創業社長の藤原ナオキが、週一で、テレビのキャスターを務めていて、それなりに世間に知られていたこと…
そして、もう一つは、FK興産を買収したのが、五井だったこと…
この二点だ…
これがなければ、世間で、話題になるはずが、なかった…
が、
人の噂も七十五日…
時間が、経てば、経つほど、世間で、話題にならなくなった…
そして、ここで、私が、世間というのは、ネットのこと…
スマホでも、パソコンでも、いい…
ネットで、見れば、週刊誌も、あるいは、一般のひとも、話題にしなくなってきたのが、わかる…
もちろん、ナオキが、一般人だということも、大きい…
いかに、ナオキが、長身のイケメンといえども、一般人…
週一でテレビに出ているが、芸能人でも、なんでも、ないからだ…
これが、芸能人ならば、もっと、騒動は、続いただろう…
やはり、有名芸能人となると、知名度が違う…
藤原ナオキを世間で、知らない者も、多いが、これが、有名芸能人ともなると、真逆に、知らない者が、ほぼいないと、なる…
だから、当然、話題になる、大きさも違うし、長さも、違う…
人の噂も七十五日という、世間の常識が当てはまらなくなるからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
それでも、まだ、ナオキから、連絡がなかった…
これは、いくらなんでも、おかしい…
おかし過ぎる…
すでに、ナオキが、伸明と共に、記者会見をしてから、一か月は、経っている…
にもかかわらず、ナオキから、連絡は、一切ない…
さすがに、私も、この事態になって、ようやく、気付いたというか…
事態が、おそらく、私が、考えている以上に、深刻な事態になっているのでは?
と、思った…
が、
どうして、いいか、わからなかった…
どう、動けば、いいのか、わからなかった…
ナオキから、連絡もない…
伸明からも、連絡もない…
そして、マミさんからも、連絡もない…
一か月近く前に、私に、今回の騒動の内訳を明かして以来、マミさんからも、連絡もなかった…
私は、歯がゆいというか…
自分で、自分が、どうして、いいか、わからなかった…
が、
望みはあった…
望み=希望は、あった…
それは、なにかと、いえば、長谷川センセイ…
五井記念病院の私の担当医の長谷川センセイだ…
長谷川センセイは、五井の一族…
おまけに、長谷川センセイの元にいた、長井さんは、五井長井家の人間…
あの二人に接触すれば、間違いなく、どういう事態になっているか、わかる…
が、
さすがに、それをしていいものか、どうか、悩んだ…
なぜなら、マミさんの言葉を信じるならば、長井さんと、伸明、和子は、対立している…
本家と分家の立場で、対立している…
そして、長谷川センセイと長井さんは、叔父と姪の関係…
と、なれば、当然、長谷川センセイは、五井長井家側の人間と、思って、間違いはない…
つまりは、伸明と敵対する側の人間…
そして、そんな敵側の人間と私が、接触すれば、下手をすれば、取り込まれるというか…
長谷川センセイと、長井さんの側に引きずり込まれるかも?
と、思った…
正直、五井家内の勢力争いだ…
どっちが、正しいも、なにも、ないだろう…
昔の戦国大名の争いと、同じ…
いいも、悪いも、ない…
強ければ、勝ち、弱ければ、負ける…
それだけのことに違いない…
五井家当主の伸明の立場で、言えば、分家の五井長井家が、力をつけては、困る…
そうなれば、五井の秩序が崩れる…
そして、そんなことが、続けば、最悪、五井がバラバラになり、五井が、崩壊する…
そう、マミさんは、私に説明した…
が、
それは、マミさんには、すまないが、マミさんの立場での話…
マミさんの立場=本家の立場での話だ…
本家と対立する五井長井家は、また別の話をするだろう…
五井長井家の立場では、の話をするだろう…
そもそも立場が、異なれば、話が、異なる…
いい例が、今度のFK興産の買収だ…
FK興産が、そんなに経営状況が、悪かったのか、どうか、私は、知らない…
が、
オーナー社長で、あるナオキの持つFK興産の株を半分、五井に売って、五井と共同経営すると、聞いて、私は、いい気は、しなかった…
ナオキの持つFK興産の株の半分を買い取ったのは、伸明なのだから、知らない仲ではない…
しかしながら、ナオキと伸明が仮に対立するとなれば、私は、迷うことなく、ナオキの側につく…
藤原ナオキの側につく…
なにしろ、ナオキとは、十五年は、いっしょ…
いかに大金持ちの御曹司でも、昨日今日知り合った伸明とは、付き合った長さが違う…
付き合った深さが違う…
そういうことだ…
ホントか、どうかは、わからないが、マミさんに、言わせれば、今、伸明が、真剣に結婚を考えているのは、私だけと、言っていた…
私、寿綾乃だけだと、言っていた…
が、
正直、それを、聞いて、複雑な気分だった…
もちろん、伸明は、好き…
結婚したいと、思う…
が、
私風情の女と、ホントに結婚したいのか?
五井家当主が、ホントに結婚したいのか?
と、考えれば、複雑…
実に、複雑な気分だった…
なにしろ、身分が違いすぎるからだ…
むしろ、いみじくも、ユリコが言ったように、伸明が、私を好きなフリをして、私とナオキを引き裂き、ナオキを一人にして、ナオキからFK興産の株を買い取ろうとしたと、いう話の方が、信憑性が、高いというか…
話として、信じられる…
伸明を疑うわけではないが、ユリコの言った話の方が、信じられるのだ…
これは、私のひがみ…
もしかしたら、ひがみかも、しれない…
大金持ちの伸明と、一般人の自分を比べて、ひがんでいるのかも、しれない…
が、
それで、いい…
むしろ、それが、正常だと、思った…
なぜなら、自分で、言うのも、なんだが、私は、自分で、自分の立ち位置がわかっていると、思うからだ…
世の中には、稀に、とんでもなく、自分の立ち位置が、理解できない者がいる…
まったくの平凡なルックスで、学歴もなにもなく、お金持ちでも、なんでもない…
そんなまったくの平凡な人物にもかかわらず、男なら、この会社で出世するとか、女なら、年収一千万円を超える年収の男でなければ、結婚しないとか…
とにかく、絶対不可能なことを、言う…
いわゆる、大言壮語なのだが、本人は、本気…
まぎれもなく、本気だ…
だから、陰で、間違いなく笑われているのだが、本人は、それに、気付かない…
そして、身近で、そういう人間を見るのも、また辛いものがあるからだ…
善人を気取るわけでは、ないが、笑うのも、笑われるのも、見ているのも、嫌…
大半の人間が、そうだろう…
大半の人間が、同じだろう…
そして、それを、思えば、私は、まだ正常…
正常の部類に入っていると思う…
なぜなら、伸明と私の身分の差がわかっているからだ…
だから、正常…
私は、正常と、思う…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、結局、五井記念病院に赴き、長谷川センセイに会うことに、なった…
なぜなら、定期健診の日が、やって来たからだ…
正直、長谷川センセイに会いに行くのは、不安だった…
やはり、伸明のことを、思うから、不安だった…
こんなことを、言うと、おかしいが、長谷川センセイと、伸明のどっちを取るかと、問われれば、間違いなく、伸明を取る…
本当か、ウソか、わからないが、私を好きだと言う、伸明と、長谷川センセイを同列に扱うのも、どうかと、思うが、それが、正直な気持ちだった…
つまりは、伸明と長谷川センセイは、敵対している…
そう、思ったからだ…
だから、どっちにつくかと、問われれば、伸明…
間違いなく、伸明だった…
が、
ホントのことを、言えば、これも、おかしい…
伸明とナオキの関係が、わからないからだ…
伸明とナオキが、敵対している可能性もある…
もしかしたら、ナオキは、伸明にFK興産の業績の相談をしたところ、伸明に騙され、五井に株を譲って、今頃、後悔している可能性も、否定できないからだ…
つまりは、伸明も、長谷川センセイも、関係がない…
私にとって、大事なのは、ナオキ…
藤原ナオキだった…
そして、そんなことを、考えながら、私は、自宅から、五井記念病院に向かった…
正直、気が重かった…
長谷川センセイに会いたくなかった…
が、
真逆に会いたい気持ちもあった…
長谷川センセイに、聞けば、五井本家と五井長井家の争いの全貌がわかるからだ…
私が、聞いたのは、あくまで、マミさんから…
そのマミさんは、本家である、五井家当主、伸明の妹…
血は繋がってないが、妹だ…
だから、マミさんは、本家の立場で、今回の騒動を語った…
が、
長谷川センセイや長井さんに、聞けば、五井長井家の立場で、話を聞くことができるからだ…
ケンカではないが、双方から話を聞くことが、大事…
立場が、違うのだから、余計に、双方から、話を聞くことが、大事だからだ…
そして、そんなことを、考えながら、
…これって、一体、どうなんだろ?…
と、思った…
これでは、まるで、仲裁役というか…
なにも力がない、私が、まるで、五井のゴタゴタの仲裁役を買って出たような、物言いだ…
…一体、どれだけ、アンタ、偉いんだよ!…
と、思わず、自分自身に、突っ込みたくなった(笑)…
同時に、気付いた…
前にも言った、自分をわかっていない、男と女…
学歴もなにもないのに、この会社で、出世すると、豪語したり、まったくの平凡な女にも、かかわらず、年収一千万円以上の男でないと、結婚しないと、豪語する女…
そんな男女と私は、なにも、変わらないのでは、ないか?
ふと、気付いた…
自分の実力が、わからない…
自分の実力を、まるで、何十倍、何百倍にも、過大評価する…
その結果、周囲の人間に陰で笑われている…
そんな彼ら、彼女らと変わらないのではないか?
ふと、気付いた…
そして、それに、気付くと、我ながら、恥ずかしくなった…
まもなく、33歳にもなる女が、そんなことも、わからないのか?
と、恥ずかしくなった…
同時に、気付いた…
頭のレベルは、変わらない…
歳を取っても、変わらないという事実に、だ…
歳を取れば、賢くなると、世間で言われているが、それは、幻想…
そんなことは、ありえない…
それが、わかった…
賢くなったと、思っても、それほどでもない…
例えれば、それは、要するに、女が化粧するレベル…
つまり、実物とメイクをした姿が、まったくの別人レベルでは、ないということ…
つまりは、いくら歳をとっても、その程度の差しか、ないということだ…
間違っても、偏差値40の人間が、社会に出れば、早稲田並みに頭が良くなるわけでは、ないということだ(爆笑)…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことに、この歳になって、気付くなんて、やっぱり、私は、高卒…
高卒レベルの女だと、あらためて、自分自身を思った(苦笑)…
<続く>
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