伸明 15

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その後、五井による、FK興産の買収は、世間で、話題になったが、長くは、続かなかった…  それは、そうだろう…  FK興産は、授業員千人程度の会社…  そんな会社の買収を、いつまでも、世間が、話題にするはずがない…  FK興産の買収が、世間で、話題になった理由は、二つ…  創業社長の藤原ナオキが、週一で、テレビのキャスターを務めていて、それなりに世間に知られていたこと…  そして、もう一つは、FK興産を買収したのが、五井だったこと…  この二点だ…  これがなければ、世間で、話題になるはずが、なかった…  が、  人の噂も七十五日…  時間が、経てば、経つほど、世間で、話題にならなくなった…  そして、ここで、私が、世間というのは、ネットのこと…  スマホでも、パソコンでも、いい…  ネットで、見れば、週刊誌も、あるいは、一般のひとも、話題にしなくなってきたのが、わかる…  もちろん、ナオキが、一般人だということも、大きい…  いかに、ナオキが、長身のイケメンといえども、一般人…  週一でテレビに出ているが、芸能人でも、なんでも、ないからだ…  これが、芸能人ならば、もっと、騒動は、続いただろう…  やはり、有名芸能人となると、知名度が違う…  藤原ナオキを世間で、知らない者も、多いが、これが、有名芸能人ともなると、真逆に、知らない者が、ほぼいないと、なる…  だから、当然、話題になる、大きさも違うし、長さも、違う…  人の噂も七十五日という、世間の常識が当てはまらなくなるからだ…  私は、思った…  私は、考えた…  が、  それでも、まだ、ナオキから、連絡がなかった…  これは、いくらなんでも、おかしい…  おかし過ぎる…  すでに、ナオキが、伸明と共に、記者会見をしてから、一か月は、経っている…  にもかかわらず、ナオキから、連絡は、一切ない…  さすがに、私も、この事態になって、ようやく、気付いたというか…  事態が、おそらく、私が、考えている以上に、深刻な事態になっているのでは?  と、思った…  が、  どうして、いいか、わからなかった…  どう、動けば、いいのか、わからなかった…  ナオキから、連絡もない…  伸明からも、連絡もない…  そして、マミさんからも、連絡もない…  一か月近く前に、私に、今回の騒動の内訳を明かして以来、マミさんからも、連絡もなかった…  私は、歯がゆいというか…  自分で、自分が、どうして、いいか、わからなかった…  が、  望みはあった…  望み=希望は、あった…  それは、なにかと、いえば、長谷川センセイ…  五井記念病院の私の担当医の長谷川センセイだ…  長谷川センセイは、五井の一族…  おまけに、長谷川センセイの元にいた、長井さんは、五井長井家の人間…  あの二人に接触すれば、間違いなく、どういう事態になっているか、わかる…  が、  さすがに、それをしていいものか、どうか、悩んだ…  なぜなら、マミさんの言葉を信じるならば、長井さんと、伸明、和子は、対立している…  本家と分家の立場で、対立している…  そして、長谷川センセイと長井さんは、叔父と姪の関係…  と、なれば、当然、長谷川センセイは、五井長井家側の人間と、思って、間違いはない…  つまりは、伸明と敵対する側の人間…  そして、そんな敵側の人間と私が、接触すれば、下手をすれば、取り込まれるというか…  長谷川センセイと、長井さんの側に引きずり込まれるかも?  と、思った…  正直、五井家内の勢力争いだ…  どっちが、正しいも、なにも、ないだろう…  昔の戦国大名の争いと、同じ…  いいも、悪いも、ない…  強ければ、勝ち、弱ければ、負ける…  それだけのことに違いない…  五井家当主の伸明の立場で、言えば、分家の五井長井家が、力をつけては、困る…  そうなれば、五井の秩序が崩れる…  そして、そんなことが、続けば、最悪、五井がバラバラになり、五井が、崩壊する…  そう、マミさんは、私に説明した…  が、  それは、マミさんには、すまないが、マミさんの立場での話…  マミさんの立場=本家の立場での話だ…  本家と対立する五井長井家は、また別の話をするだろう…  五井長井家の立場では、の話をするだろう…  そもそも立場が、異なれば、話が、異なる…  いい例が、今度のFK興産の買収だ…  FK興産が、そんなに経営状況が、悪かったのか、どうか、私は、知らない…  が、  オーナー社長で、あるナオキの持つFK興産の株を半分、五井に売って、五井と共同経営すると、聞いて、私は、いい気は、しなかった…  ナオキの持つFK興産の株の半分を買い取ったのは、伸明なのだから、知らない仲ではない…  しかしながら、ナオキと伸明が仮に対立するとなれば、私は、迷うことなく、ナオキの側につく…  藤原ナオキの側につく…  なにしろ、ナオキとは、十五年は、いっしょ…  いかに大金持ちの御曹司でも、昨日今日知り合った伸明とは、付き合った長さが違う…  付き合った深さが違う…  そういうことだ…    ホントか、どうかは、わからないが、マミさんに、言わせれば、今、伸明が、真剣に結婚を考えているのは、私だけと、言っていた…  私、寿綾乃だけだと、言っていた…  が、  正直、それを、聞いて、複雑な気分だった…  もちろん、伸明は、好き…  結婚したいと、思う…  が、  私風情の女と、ホントに結婚したいのか?  五井家当主が、ホントに結婚したいのか?  と、考えれば、複雑…  実に、複雑な気分だった…  なにしろ、身分が違いすぎるからだ…  むしろ、いみじくも、ユリコが言ったように、伸明が、私を好きなフリをして、私とナオキを引き裂き、ナオキを一人にして、ナオキからFK興産の株を買い取ろうとしたと、いう話の方が、信憑性が、高いというか…  話として、信じられる…  伸明を疑うわけではないが、ユリコの言った話の方が、信じられるのだ…  これは、私のひがみ…  もしかしたら、ひがみかも、しれない…  大金持ちの伸明と、一般人の自分を比べて、ひがんでいるのかも、しれない…  が、  それで、いい…  むしろ、それが、正常だと、思った…  なぜなら、自分で、言うのも、なんだが、私は、自分で、自分の立ち位置がわかっていると、思うからだ…  世の中には、稀に、とんでもなく、自分の立ち位置が、理解できない者がいる…  まったくの平凡なルックスで、学歴もなにもなく、お金持ちでも、なんでもない…  そんなまったくの平凡な人物にもかかわらず、男なら、この会社で出世するとか、女なら、年収一千万円を超える年収の男でなければ、結婚しないとか…  とにかく、絶対不可能なことを、言う…  いわゆる、大言壮語なのだが、本人は、本気…  まぎれもなく、本気だ…  だから、陰で、間違いなく笑われているのだが、本人は、それに、気付かない…  そして、身近で、そういう人間を見るのも、また辛いものがあるからだ…  善人を気取るわけでは、ないが、笑うのも、笑われるのも、見ているのも、嫌…  大半の人間が、そうだろう…  大半の人間が、同じだろう…  そして、それを、思えば、私は、まだ正常…  正常の部類に入っていると思う…  なぜなら、伸明と私の身分の差がわかっているからだ…  だから、正常…  私は、正常と、思う…  私は、思った…  私は、考えた…    そして、結局、五井記念病院に赴き、長谷川センセイに会うことに、なった…  なぜなら、定期健診の日が、やって来たからだ…  正直、長谷川センセイに会いに行くのは、不安だった…  やはり、伸明のことを、思うから、不安だった…  こんなことを、言うと、おかしいが、長谷川センセイと、伸明のどっちを取るかと、問われれば、間違いなく、伸明を取る…  本当か、ウソか、わからないが、私を好きだと言う、伸明と、長谷川センセイを同列に扱うのも、どうかと、思うが、それが、正直な気持ちだった…  つまりは、伸明と長谷川センセイは、敵対している…  そう、思ったからだ…  だから、どっちにつくかと、問われれば、伸明…  間違いなく、伸明だった…  が、  ホントのことを、言えば、これも、おかしい…  伸明とナオキの関係が、わからないからだ…  伸明とナオキが、敵対している可能性もある…  もしかしたら、ナオキは、伸明にFK興産の業績の相談をしたところ、伸明に騙され、五井に株を譲って、今頃、後悔している可能性も、否定できないからだ…  つまりは、伸明も、長谷川センセイも、関係がない…  私にとって、大事なのは、ナオキ…  藤原ナオキだった…  そして、そんなことを、考えながら、私は、自宅から、五井記念病院に向かった…  正直、気が重かった…  長谷川センセイに会いたくなかった…  が、  真逆に会いたい気持ちもあった…  長谷川センセイに、聞けば、五井本家と五井長井家の争いの全貌がわかるからだ…  私が、聞いたのは、あくまで、マミさんから…  そのマミさんは、本家である、五井家当主、伸明の妹…  血は繋がってないが、妹だ…  だから、マミさんは、本家の立場で、今回の騒動を語った…  が、  長谷川センセイや長井さんに、聞けば、五井長井家の立場で、話を聞くことができるからだ…  ケンカではないが、双方から話を聞くことが、大事…  立場が、違うのだから、余計に、双方から、話を聞くことが、大事だからだ…  そして、そんなことを、考えながら、  …これって、一体、どうなんだろ?…  と、思った…  これでは、まるで、仲裁役というか…  なにも力がない、私が、まるで、五井のゴタゴタの仲裁役を買って出たような、物言いだ…  …一体、どれだけ、アンタ、偉いんだよ!…  と、思わず、自分自身に、突っ込みたくなった(笑)…  同時に、気付いた…  前にも言った、自分をわかっていない、男と女…  学歴もなにもないのに、この会社で、出世すると、豪語したり、まったくの平凡な女にも、かかわらず、年収一千万円以上の男でないと、結婚しないと、豪語する女…  そんな男女と私は、なにも、変わらないのでは、ないか?  ふと、気付いた…  自分の実力が、わからない…  自分の実力を、まるで、何十倍、何百倍にも、過大評価する…  その結果、周囲の人間に陰で笑われている…  そんな彼ら、彼女らと変わらないのではないか?  ふと、気付いた…  そして、それに、気付くと、我ながら、恥ずかしくなった…  まもなく、33歳にもなる女が、そんなことも、わからないのか?  と、恥ずかしくなった…  同時に、気付いた…  頭のレベルは、変わらない…  歳を取っても、変わらないという事実に、だ…  歳を取れば、賢くなると、世間で言われているが、それは、幻想…  そんなことは、ありえない…  それが、わかった…  賢くなったと、思っても、それほどでもない…  例えれば、それは、要するに、女が化粧するレベル…  つまり、実物とメイクをした姿が、まったくの別人レベルでは、ないということ…  つまりは、いくら歳をとっても、その程度の差しか、ないということだ…  間違っても、偏差値40の人間が、社会に出れば、早稲田並みに頭が良くなるわけでは、ないということだ(爆笑)…  私は、思った…  私は、考えた…  そして、そんなことに、この歳になって、気付くなんて、やっぱり、私は、高卒…  高卒レベルの女だと、あらためて、自分自身を思った(苦笑)…                <続く>
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