バカップルとラブホテル〜糖分増し増し版♡〜

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「──んー・・・」  ──不意に喉の渇きを覚えて、眠っていた藤次は重い瞼を開ける。 「どこや・・・ここ・・・」  見知らぬ天井をぼんやり眺めていると、軽やかな寝息が横から聞こえてきたので身体を起こしてみると── 「ん・・・んん・・・」 「ああ。せや、 確か、久々やからちょい遠出して、あんまり楽しかったから離れるん辛なって、近くのラブホに、泊まったんや・・・」 「ん・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」  辺りを見回すと、室内には乱雑に脱ぎ捨てられた衣服。  ゴミ箱には大量に捨てられたティッシュと、二回分の使用済みコンドーム。  なにより、寝乱れた絢音の長い髪の毛が、先程までの情交の激しさを色濃く残していて、藤次は僅かに赤面する。 「・・・ホンマに久しぶりやったからな。我ながら、年甲斐もなく張り切ってもうたわ。恥ずかし・・・」  言って頭を掻きながら、ベッドから起き上がり、急茶セットの電気ケトルに水を入れてスイッチを押す。 「んー・・・」  気持ちよさそうに眠る絢音を見つめながら、そっとベッドに戻り、頬に張り付いた後毛を耳にかけてやる。 「ん・・・」 「可愛い、なぁ〜」  人形のような長い睫毛と、小さな鼻と唇。桜貝色の爪。白い滑らかな肌。均整の取れた肉付きの良い身体。  今まで枕を交わしたどの女性より、愛らしくて愛おしい・・可愛い恋人の寝顔に思わずムラムラしてしまい、そっとキスをすると── 「ん・・・」  パチッと目覚めた絢音を、藤次は恥ずかしさと残念さの入り混じった笑顔で迎える。 「残念。寝込み襲おうとしたけど、起きたか・・・。まだ夜やろけど、おはようさん」 「とーじ、さん?」 「うん・・・」  掠れた声で名前を呼び、大きく息を吐いて、絢音はシーツに突っ伏す。 「な、なんやどないした?! どっか痛いんか?! それともワシ、なんや夢中やったから、お前に何か嫌な事したか?!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逆」 「は、はひ?!!?!」  ──逆。  それは、つまり、  どんな甘美なピロートークより甘く、どんな口説き文句より強烈な絢音の一言に、思わず藤次は顔を真っ赤に染める。 「・・・でも、少し激し過ぎたかも。次は、少し優しく、してね?でないと私、藤次さんから、離れられなくなっちゃう・・・」 「ご、ごめん・・・ そやし、言い訳させて?絢音とするの、ホンマに気持ち良くて・・毎回加減する余裕ないねん。好きや・・」 「あ・・・」 「絢音・・・」  我慢がきかず、戸惑う絢音を抱き締め、3回目をしようとした時だった。  セットしていた急茶セットのポットが、沸騰を知らせる音を立てたのは。 「あ!せや、コーヒー飲もう思うて湯沸かししてる最中やった!」 「えっ!? あの・・・」  ーー甘ったるい雰囲気は忽ち冷め、ガウンを着て急茶セットへまっしぐらに行くと、慣れた手つきでコーヒーを作る藤次。  その様子をベッドから半身を起こして見つめていると、藤次は特に悪びれる様子もなく・・・ 「ん? なんや、お前もなんか飲むか? あったかいのも、自販機あるから冷たいのもあるで?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「な、なんね・・・・・・」 「慣れてる・・・・・・」 「はっ?!」  じとりと睨みつける絢音の口から出た言葉にポカンとしていると── 「前々から薄く思ってたけど、藤次さんて、こーゆーとこの扱い、ホント慣れてる。私に会う前から、よく使ってたの?」 「あ、いやその・・・・・・」  段々しどろもどろになっていく藤次に、絢音は寂しそうにポツリと呟く・・・ 「いたんだ。 私以外にも、気持ち良かった人 。そうよね。藤次さん、デート中街中でもよく声掛けられるし、モテるもんね・・・」 「か、過去や過去! 大体、今はお前、一筋や!! 他の女なんて、イモやカボチャと同じ、なんも感じん! 逆にウザいくらいやっ!」 「・・・ホント?」 「うん!ホント!! 悪かったな。 折角の雰囲気台無しにして。 せや!風呂入ろ? 泡風呂で身体洗いっこ。 楽しいで?」 「う、うん! じゃあ、お風呂用意してくる!!」 「うん! 頼むわ」 「ふふっ・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・」  ──そうしてバスローブを着て浴室に行く絢音に笑いかけていたが、姿が消えると、藤次は大きく息を吐く。 「せ、セーフ。 何とか、凌いだわ」  言って、焦る気持ちを抑えるように、コーヒーを口に運ぶ。 「言える訳ないよなぁ〜言い寄ってくる女、昔は片っ端からラブホに連れ込み食ってたなんて、なぁ〜」  ──そう。  絢音の推察通り、司法修習生時代から新米検事として地方へ赴任していた20代の頃は、自慢ではないが、人生のモテ期だった。   一夜限りから真面目な交際まで、とにかく女には不自由しない生活だった。  女なんて、掃いて捨てるほどおる。それが口癖だった。  だから正直、女にここまでのめり込んだのは初めてで、自分にもまだ、こんなピュアな部分があったのかと気付かされる毎日で──  なにより、身体の相性も心の相性もぴったりな・・・愛しい女性に出会えて、自分は今、充分満たされてる。  だから── 「大事に、せんとな・・・」 「藤次さん! お風呂、大分溜まったわよ?」 「ん?ああ、おおきに♡ほんなら一緒に、入ろうな♡」 「うん♡ あ! ねー、抱っこして♡さっき雰囲気壊した埋め合わせっ♡」 「もー・・・。ホンマに可愛いやっちゃなぁ〜♡ 風呂直ぐそこやろ? 歩き♡」 「いや〜♡ 髪の毛も濡れないように結って♡ お姫様扱いしてくれなきゃ、機嫌直してあげない♡」 「もー・・・。とんだお(ひい)さんやな〜♡ 分かった分かった♡ 全部したる♡」 「へへっ!」  そうして綺麗に髪を整えてやった絢音を抱き上げて、藤次は腕の中で甘える彼女に囁く。 「今もこれからも、絢音が一番・・・やからな」 「嬉しい・・・ 藤次さん、好きよ・・・」 「うん・・・」  ──そうしてこうして、見つめ合ってキスをして、2人の甘ーい夜は、更けて行ったのでした♡  ご馳走様ーー♡
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