平凡魔女の私ですが、引越しセンターをはじめます!

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「あらぁ、久しぶりやねぇ。エルルちゃん。配送業の方はどないなん?」エリカ・アベ。かつて日本で妖怪、悪霊、魑魅魍魎が跋扈していた時代に活躍していた陰陽師と呼ばれる呪術集団がいた。その中でも有名だったのが役小角と安倍晴明。エリカの家はその安倍晴明の血を引く家系らしい。  そのため、魔法学校では魔術というよりは霊等を相手とする呪術を得意としており、式神の扱いは教師陣の上をいっていた。ここだけ見るといわゆる優等生なのだが、そのおっとりとした性格は上昇志向というよりは唯我独尊という感じであり、魔法界を牽引するといった学生ではなかった。それよりも――― 「いやだわぁ、せっかく来たんだし泊まっていったらええやないの? ベッドは一つしかないけど、一緒に寝れば問題ないし。仕事もひと段落したところやさかい、今日はゆっくりしていったらええよ?」エリカの家は豪邸である。それも家の庭に鯉が住む池があるぐらいの豪邸である。客室がないわけがない。それでもそう言うのはエリカはエルルのことが好き―――いわゆる百合系お嬢様なのだ。  エルルもまさか同性に狙われるということがあるなどと思っていなかった。しかし、世が世である。エルルは明確に意志表示をしつつも、その友情だけは受け取ることにしていた。 「―――それはそれとして相談があるの」エルルは例の仔猫をエリカに見せる。 「ああ、これは猫又やねぇ。こんな大層な妖怪をどこで?」エルルは経緯について簡単に説明する。 「なるほどなぁ。しかし、猫又は日本政府の魔法呪術委員会でも討伐対象とされとる妖怪や。ほんまは討伐するか委員会に差し出すかしないとあかんのやけどなぁ」 「わたしの使い魔にするのはどうかな? わたしまだ黒猫持ってないし」仔猫はエルルに引っ付いて離れようとしない。一見エルルに懐いているようにも見える。 「エルルちゃん。猫又は妖怪や。それに黒猫ちゃうで。白猫やん。その妖力に喰われることがあればエルルちゃんだけやのうて周りの人間にも危害があるんよ?」エリカはおっとりしつつも毅然とした態度をとる。 「まぁ、いざとなったらうちの妖狐はんもいるし。なんとかなるやろ、とは思うけど」 「じ、じゃあ―――。決めた。この子の名前はカツェル。わたしの使い魔」 「ミ―!」と元気よく返事をする。どうやら主人と認めてくれたらしい。 「それじゃ、これで使い魔としての契約は成立やな。とは言っても相手は妖怪や。気を付けなはれ。―――それはそうと今日は泊まっていくんやろ?」エリカの顔が二ヤついていることをエルルは見逃さない。 「い、いやぁ。そのぅ―――」  その後、どうにかこうにか言い訳しつつ、今日は帰してもらえるようになった。頼りになる。しかし、油断ならない友である。
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