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嘘の代償
家に辿り着いた僕は、鍵を開けようとして、ふと動きを止める。
もし家族の誰かがいて、僕を「知らない」と言ったらどうしよう?
家族だけは僕の味方だと、
僕を知らないなんて言う筈がないと、
思い込んで家に帰って来た。
でも……どうしてそう言い切れるんだろ?
友達の文哉も、大好きな宮田先生も、僕を知らないと言ったのに。
けれど、もう僕に行く場所などない。
呼吸を整えて家に入る。誰もいない。
自分の部屋に行こうとして、怖くなってやめた。
その部屋は、もうないような気がしてしまったんだ。
朝、洗った食器を水切りかごに入れようとして、既に3人分の食器があったのを見て、少し不思議に思った。
何だ、みんなちゃんと朝食を食べて出掛けたんだ……と。
ママが僕の分だけ作らない訳がない。
その謎が今になって漸く分かった。
僕は本当は、この家に、いや、この世界にいないのだと。
誰も僕を知らないのは、いないからなんだと。
「エイプリルフールが誕生日だなんて、生まれたこと自体が嘘にされそうで、嫌だろ?」
去年のパパの言葉が甦る。
“ 僕が生まれた事が、嘘 ” だったんだ。
だから、みんな僕のことを……
でも、もう疲れた。行く場所もない。
僕はリビングのソファーに寝転び、泣き疲れて眠ってしまった。
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