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友達だった頃に戻りたい、彼に強く憧れ片想いしていたあの頃に。
だけど時間は戻らなくて、私は自らの口で、終止符を打ったんだ。
「別れよう、今までありがとう」
私の言葉を予想していたのか、彼氏は余り驚かなかった。
そっか、とひとつ軽く息を吐くと。
「こちらこそ、ありがとう。元気でな」
片手を挙げ去っていった後ろ姿が、米粒ほど小さくなり遂に見えなくなってしまっても、私は目を逸らすことができなかった。
賑やかな往来のある、昼時のオフィス街。
別れたのは全て私が悪い、私が必要以上に彼を縛りつけたから。
彼が女の子とふたりきりなだけでヤキモチを焼き、必要以上に心配した。
だけじゃない、疑った。
彼が大好きだった。
誰にも取られたくなくて、私がいつも一番でいたくて。
気づけば愛を測り試すことをした。
勿論努力もしたけれど、その方向を間違えた。
美容に力を入れて、いつも綺麗な私でいた。
彼のことを考えているようで、脳内は自分のことでいっぱいだった。
スマホが振動し、立ち尽くしていた私は我に帰る。
鞄から取り出し画面を確認すると彼、ではなく元彼からだ。
『幸せになれよ』
そう、私は嘘を吐いた、エイプリルフールに託けて。
他に好きな人も次の彼氏候補もいない、浮気も二股もしていない。
全部ただの強がり、自作自演のショボい嘘。
四月の空は晴れていて、朝方冷えたのが嘘みたいに暖かい。
あーあ、この別れもエイプリルフールの嘘ならいいのに。
私は両腕を広げ天に伸びをすると、大きく息を吸い込んだ。
春は出会いと別れの季節。だったら春になんて、なってほしくなかったよ。
『貴方を好きになって良かった』
私は返信すると、すぐさまトーク画面を削除した。
ブロックする。ありがとう、と呟きながら。
もう一度、貴方を見送った雑踏を見詰める。
嘘だよ、全部嘘。そう打ち明け笑い合いたいな。
エイプリルフールなんだから……
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