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「じゃあ、またな。…ごめんな、一緒にいてやれなくて。…その、オレは…」
「もういいよ」
私は、彼のTシャツの裾を掴んだ。
そして、少しだけ背伸びをして、最後のキスをした。
「ごめんを言うのは私なんだよ。あなたは何も悪くないでしょ?」
私はそう言って、精一杯の笑顔を貼り付けた。
「自分のこと、受け入れてもらえるなんて思ったからダメだったんだよ。大丈夫だから。行って。お願いだから、幸せになってね」
そして、骨が砕けそうなほどの抱擁を交わした。
「さよなら。今度はちゃんとした人と一緒になって」
そう言って、オレは彼から離れた。
そう、オレは男だ。そして、女だ。
どうしてなのかはわからないけれど、自分の中に二つの性別が存在する自覚がある。
人生のほとんどを、その二つを使い分けて生きてきた。
時にずるいと言われ、時に羨ましいと言われた。
でも、まさかこんなことになるとは思ってなかった。
「オレ、困ったことが続くと男になるんだよね。それも、作ってるんじゃなくて、マジのやつ。普段は女なんだけど、自分のまま男になる感じ。おかしいのかな?」
オレがそう言ったのが、崩壊の始まり。
彼はオレを抱けなくなった。
新婚なのに、そうなったら崩壊は早かった。
責めらんねえよ。
オレだって彼が女だって言ったら抱いてもらえない。
気持ちがどうだとか、体がどうだとか、もうわかんねえ。
とにかく、彼にはダメだった。
オレは彼が好きだから。
お願い、幸せになって。
オレはずっと、見守ってるから。
あなたが心から愛せる人と、幸せになってね。
「…じゃあな」
あなたは涙ながらに扉を閉めた。
そして、思い出の半分を詰め込んだトラックで、オレの知らない場所へと越していく。
「さようなら」
そう告げると、自分のバッグをもって、オレは彼が知らない場所へと去っていった。
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