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知ってる?
親友が車にはねられて右腕を失ったと、本人から連絡が来た。『小百合に会いたい』とも。私は取る物も取り敢えず病院に向かった。
「小百合! 良かった。会いに来てくれたんだね」
「美優! 会いに来てくれただなんてそんな・・・」
美優は病室のベッドの上で上体を起こしていた。右腕は、無い。いつでもにこにこ笑って明るい美優。今もいつも通り、にこにこ笑っていて、私は涙が出てしまう。
「ここの病院食、美味しいんだよ。特に和食がねー」
美優が雑談を始める。私は目に涙を溜めながら、笑って頷く。
「・・・そういえば、小百合、こんな歌を知ってる?」
にこにこ笑いながら、美優が歌い始めた。
『もぐぞ もぐぞ 手足をもぐぞ
右手をもいだら 左手を
右足もいだら 左足
最期に胴を 首からもぐぞ
お前を殺しにやってくる
必ず殺しにやってくる
もぐぞ もぐぞ 呪いの歌で』
私はさあっと顔が青ざめた。不気味な、歌。
「み、美優、どうしたの、急に・・・」
「最近流行りの都市伝説だよ。この歌を聞いた人のところに『アイツ』がやってきて、一本ずつ、もいでいくの。私は『アイツ』に突き飛ばされて、車にはねられて右手を失った。知ってる? 呪いから助かる方法・・・」
「じょ、冗談にしちゃ、性質が、悪いよ・・・?」
「『流し雛』と同じでね、別の『ヒトガタ』に呪いを移すんだよ。今みたいに誰かに歌って聞かせるの。小百合、私、ずっと昔から私より可愛い貴方のことが嫌いだった。私を『親友扱い』してくる貴方が、ね。嘘だと思う? 私の言葉を? 都市伝説を? どっちでも、いいわ。さようなら、小百合。二度と私に関わらないで」
美優はにこにこと微笑んだまま、そう言った。
私は病室を飛び出す。
「あ、あは、は・・・」
乾いた笑い。病院を出て、携帯の中から一つの番号を選んだ。私にお金を借りたまま返してくれない元カレ。
『・・・小百合? なんか用?』
不機嫌を隠しもしない。
「武弘、私、寂しくなっちゃって・・・。ちょっとだけ話に付き合ってほしいの・・・」
『えっ? ・・・お、おう。いいよー。なんならうち来る?』
「うん。あのね、道中、電話繋いだままでいいかな?」
『いいよいいよ!』
私の唇は震える。喜び、悲しみ、怒り、恐怖。なにで震えているのかは、自分でもわからない。その震えた唇で、歌を歌った。
『もぐぞ もぐぞ 手足をもぐぞ
右手をもいだら 左手を
右足もいだら 左足
最期に胴を 首からもぐぞ
お前を殺しにやってくる
必ず殺しにやってくる
もぐぞ もぐぞ 呪いの歌で』
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