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翌日、図書室には3人の男性が待っていてくれた。それぞれの侍女や侍従は窓際の椅子に座ってこっちを見てる。・・・この妖艶な侍女を連れてるのはどちらの男性なのかしら。まぁ、どうでもいいけど。 図書室は珍しく、混んでるって言ってもいいほど人がいる。ほんっとに最大限の証人付きだわ。 ・・・まさか、この人数全部仕込み?じゃないよね? 3人はぞれぞれ。 「セレスタイト公爵令息様、トレニア様、ランタナ様。 ポロン伯爵家のネリネと申します。本日は勉強会とのことで、よろしくお願い致します」 全員3年生。高位貴族家の方。 「どうして俺だけ家名なの?」公爵令息は憤るけど。 おふたりとも、自己紹介で名前しか仰らなかったもの。そう呼べと言う意味に取ったわ。 「公爵令息様には、お名をお呼びする許可はいただいてませんので」 あんた、昨日名乗らなかったじゃないの!って嫌味を言ってやった。 「あれ、そうだっけ。それは悪かった。俺の事はシュウと呼んでほしい」 愛称?冗談じゃない! きっぱり断ったのに。へらっとした笑い方で彼は、愛称で呼べと言い張る。 助けてほしいと他のふたりを見たけど。すーっと視線を逸らされた。 なに?このふたりは、私の噂を信じてるほうの人なの? 敵か!敵なのか! くー、仕方ない。 「・・・シュウ、様?」 覚悟を決めて呼ぶと。シュウ様は、ご機嫌に笑った。 「あぁ。友人はみなそう呼ぶんだ。シュウカイドウ、なんて長いからね」 うん長いな。 「では、遠慮なく呼ばせていただきますわ」 「うん。女性でそう呼ぶのは、家族ぐらいだけどね」 えええ?それ・・・返事をしてから開示する情報じゃないわ! 私の立場を考えてよ! 奇妙な友人関係は・・・こんな感じで始まっちゃった。 図書室だしね。大きな声では話せないしね。 単に同じ4人掛けのテーブルで勉強をしているだけ、と言う感じなんだけど。 それでも、ちらちらとこちらを見ているご令嬢は多かった。 3人とも、見目麗しい男性だし。学年も違う私が女性ひとりだし。どういう集まりなのか、気になっているんだろう。 私の目の前に座っているのはランタナ様。同じ外国語の教科書を出してるから、つい質問をしたのに。 「俺に聞きなさい」隣に座ってるシュウ様が割り込んでくる。 はぁ? ・・・あ、そうか。この人と交流するんだったっけ、噂のために。 他のふたりは証人だっけね。 仕方なく質問すると、説明は丁寧。発音はゆっくりでわかりやすい。さすが首席と自慢するだけあるわ。これは儲けものだったかも。試験対策を今のうちにしてしまおう。 ・・・でも。 よく考えるとこの人、仕返しのために私との勉強会開いてるんだよねー。 ばかだよねー。 勉強が出来るのと、頭がいいというのは違うって証明のような人だわ。 週に一度、食堂でランチを。 週に一度、図書室で勉強会を。 そういう約束だったんだけど・・・。 「え。じゃ、最新刊をもうお読みになったの?」 隣国出身の冒険作家。自分の旅の記録に基づいて、少女が主役の冒険物語を書いていらっしゃる。とっても面白くて、大ファンなの。 「ああ、一気に読んでしまった」 シュウ様も彼の本が大好きで、すべて自室に揃えてるんだって!! シリーズ化してて、かなりの冊数なのに! 図書室に置いてある分はすべて読んだんだけど。ところどころ抜けてるのよねぇ。 自分で揃えたいけど、お小遣いをためても1年に1冊買うくらいが限度なんだもの。翻訳本って高価いわー。 いいなー。さすが公爵家。 「貸してあげるよ。明日持ってくる」 明日は貴方と会う日じゃないわ。・・・ちょっと躊躇したけど。 最新刊の誘惑には勝てなかった。 彼らと会う回数は、増えるばかり。 もちろん、侍女も侍従もすぐ近くに張り付かせてる。会話もすべてまわりに聞かせるようにしてる。 トレニア様とランタナ様も毎回一緒に来てくださる。・・・ただ、ふたりは食堂で会う時でも、あんまり私と話をしてくれないけど。 やっぱり噂を信じて、私をバカな悪い女だと思ってる? 本当はシュウ様に付きあうのが嫌なんじゃないのかしら。でも逆らえない? 公爵令息の友人なんて持つもんじゃないわねぇ。 食堂でランチ。ってのだけは断ればよかったなー。 一緒にランチを取る約束をしていない日でも、私を見かけると。 「ネリネ嬢、こっち空いてるよ」 ほらまた。 シュウ様は平気で声を掛けてくるようになってしまったんだもの。 たったふたり、噂より私を信じてくれてる友人には。 シュウ様との約束を話してて。 だから彼女たちは「行ってきなよ」と送り出してくれる。 あの噂が変化してきてるってもう知ってるから、余計に応援してくれているのよね。 今日もまた、シュウ様たちとランチ。私を睨んでくる女性が増えた気がする。 「そうだ。お借りした本、凄く面白かったわ」明日は図書室で勉強会の予定だから「明日お返ししますね。貸してくださってありがとう」お礼にクッキーを焼くつもりだけど・・・。受け取るくらいはしてくれるわよね。 「もう読んだのか。 図書室では全巻揃ってないよね?シリーズの最初から読むかい?」 また貸すよ。シュウ様はそう言ってくれて! 「いいんですか?すごく嬉しいわ!」 最初のほうの本は、古いから傷んで処分されたのか。図書室では特に抜けてる巻が多いのよ。飛び上がって喜んでしまいそう! ?「シュウ様?どうしたの?」 彼は、両手で顔を隠してしまってる。 「あー」ランタナ様が代わりに返事をしてくださる「ネリネ嬢がそんなににっこりと笑ってくれたのが初めてだからだと思う」 ? 「私、そんなにいつも不機嫌そうでした?」 小さい声で聞いてみる。なんだか申し訳ないわ。 「そういう事じゃないよ」トレニア様もフォローしてくださる。 「君は所作が綺麗だからねぇ。いつも完璧な微笑みをたたえてるし。笑うと子どもっぽくて可愛いとか、僕もドキッとしたよ」 トレニア様はいつもお優しいわね。でもお世辞は要らないわ。 「お世辞ありがとうございます。淑女の仮面がはがれてお恥ずかしいですわ」 つい彼を冷たく見ちゃう。この方、トリトマと似てるんだもの。女性限定の優しさなんか要らないわ。 そっかー。シュウ様、私のマナーがなってないと呆れたのね。 侯爵家から派遣された家庭教師に鍛えられて、自分でもそこそこできてると思ってたなぁ。高位貴族の方から見たらまだまだなのねぇ。 ・・・もっと頑張りたいわ。 ばっと顔を上げたシュウ様は、文句を言うのかと思ったら。 私じゃなくて「トレニア―!」様を睨みつけていた。 「アンバー侯爵家から家庭教師が派遣されてるの?」 シュウ様をまるっと無視したトレニア様は。珍しく、またも私に話しかけてくる。 「はい。侯爵家と伯爵家ではこうもマナーが違って厳しいのか、と最初の頃は戸惑ってばかりでしたわ」 こっそりよく泣いたっけなー。情けないけど。 「・・・そっか。 ネリネ嬢には言いにくいけど・・・」 ん?何だろう。 「侯爵家から派遣されてた家庭教師。わざと厳しくしてたと思う。 君の所作は侯爵家以上だよ」 あらまぁ、ほんとに優しい方。 なんだけど。トリトマと似過ぎてて、言葉を疑っちゃうんだよなー。 最初のデートで、私の目の前でいろんな女性を褒め出して。あーこいつ無理ーって思った事思い出す。 「アリガトーゴザイマース」 トレニア様は「あぁ・・・まぁ、いいか」と肩をすくめた。 ・・・ごめん。ちょっと失礼だった。でもさー。もしも次の婚約があるなら、誰にでも優しい人だけは嫌だなぁ。
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