2-10 夢幻と窮地

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 淡い緑のバンダナにも見覚えがある。異形に囲まれながらも廃墟の街で暮らすことを望んでいたイブキは、今すぐそこに立っている。 「なんで、こんなところに……」  フィルターを通したサクの声は小さかったが、しんとした夜の草原の空気を震わせ、相手の元に届いた。一年前と変わらない様子の彼は、少しだけ肩をすくめてみせた。 「大したことじゃない、用事があってね」 「用事って、なんの」 「ちょっとしたことだよ。何もしないから、その銃を下ろしてくれないかな」  はっとして僅かに躊躇しつつも、サクは銃口を地面に向けた。ありがとうとイブキは軽く笑った。 「サクは今、シェルターに住んでるんだよな」一人で納得した風に、イブキは頷く。「シェルター生まれの超耐性なら、戻ることも可能なんだな」 「……どうして、知ってるんだ」  シェルターを自ら出た者は、二度と戻ることはできない。そして外で生まれた人間が望んでも、シェルターに入ることは不可能だ。中で培養された人間だけがシェルターで暮らすことを許されるのだ。任務中の事故という特殊事例扱いでサクがシェルター内に戻れたのは、超耐性という性質が大きなメリットとして働いたためだった。  サクについて何も知らないはずのイブキが、なぜ超耐性という情報まで得ているのだろう。 「聞いたんだよ。シェルターには超耐性の人間がいるんだって。写真を見せてもらって、それがきみだったから、心底驚いた」  サクには、自分が唾を飲み込む音が、やけに大きく響いた気がした。 「聞いたって、誰に」 「偵察部隊の隊員だよ」 「どうして、シェルターの外にいるイブキが」  目の前の若い男は、ただの住民ではない。それを証するように、彼は両手を軽く広げて笑ってみせた。 「俺が、反対派のリーダーだからさ」
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