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今は8月で真夏。太陽の日射しが強い。俺の職業は土木作業員。半袖の作業着だから、直射日光で黒く腕が焼けている。
俺は、多田光一といい、35歳。彼女はいない。欲しい気持ちは強いけれど、なかなか出逢いがない。
北海道に住んでいる俺は引っ越そうか迷っている。もし、引っ越すなら、札幌市だ。住むなら都会の中央区がいいな。
家賃はきっと高いだろう。それ相応の仕事をしないと生活が成り立たない。
たまに札幌には遊びに行っている。友人の竹田信二、
33歳。中学生の頃知り合った。こいつと行っている。同級生と会う場合は一人で行くが。
札幌には食事に行ったり、同級生に会いに行ったりしている。たまには風俗にも行っている。
同級生の名前は柊達也という。
俺の友達はヤンチャな奴が多い。中には女を犯して刑務所に入った奴もいる。流石の俺でもそんなことはしない。犯罪者になりたくないというのが1番の理由だ。
今日は月曜日で週の始め。仕事中、右下の腹に激痛が走った。最初は我慢していて、同僚が俺の異変に気付いて声を掛けてくれた。
「おい! 多田! どうした!?」
「腹が痛くて……!」
「大丈夫か?」
「いや、大丈夫じゃない」
「病院に行くか!?」
「ああ、行く!」
俺は病院は基本的に嫌いだ。だが、この腹痛は尋常じゃない。行くしかないとすぐに決めた。
だが、ここは国道を舗装していて山奥だ。声を掛けてくれた奴は班長に報告した。班長は救急車を呼ぶより、行った方が早いだろう、と判断して早退させてもらった。
同僚に病院まで送って貰う事になった。保険証は持ってきていないが、とりあえず町立病院に向かった。
こんなに痛いのに、すぐに診てくれない。同僚はナースステーションに行き、「友達が……多田が凄い痛がっているんだ! 早く診てやってくれ!」
と言ってくれた。ありがたい。看護師はこう言った。
「じゃあ、次に入って下さい」
「うん、わかった」
同僚が話しをつけてくれたみたいで、俺のいるところに戻って来た。
「多田、次、入れるぞ」
「……サンキュ」
10分くらいしてから看護師は俺の名前を大きな声で呼んだ。
「多田さーん、多田光一さーん」
俺は返事も出来ずに屈みながら診察室に入った。
俺は医師との問診、触診などを受けて、盲腸だという事が分かった。オペが必要だと言われた。約1週間の入院も余儀なくされた。
何てこった……。この俺が盲腸だなんて……。仕方ない、オペを受けてきちんと治そう。同僚はこう言った。
「班長の方にはおれが伝えておくから」
「悪い、よろしく頼むよ」
この同僚は山下修という。確か33歳のはずだ。凄く良い奴。こんなにもいい人だなんて思わなかった。とりあえず、オペが終わって落ち着いたらアパートの俺の部屋から保険証を持って来ないと。10割負担になってしまう。
俺が務める仕事は17時まで。それから30分くらい経過してから同僚の
山下が来てくれた。班長や部長は見舞いに来ないのに、こいつは来てくれる。そんなに心配してくれなくても大丈夫なんだが。でも、せっかく来てくれているので、嬉しいと言えば嬉しい。
それから退院する日まで山下は毎日来てくれた。
そして、退院の日の18時頃。山下から電話が来た。出てみると、
「こんにちは! 退院おめでとう!」
「毎日見舞いに来てくれてありがとな! 山下くらいだぞ、見舞いに来てくれたのは。しかも、毎日」
「実はさ、俺、多田さんの事が好きなんだ」
「え! それって山下がゲイということか?」
「う……うん。引いた? キモイと思った?」
「いや、キモイとは思ってないけど、びっくりした」
「多田さんはおれのことどう思ってる?」
「正直に言っていいか?」
「うん」
「俺は男に興味はないよ。女が好きだ」
「……だよねえ。でも、おれが多田さんに気があるということは忘れないで欲しい」
「わかったよ」
あっさりとした話しで、幕を閉じた。まさか寄りによって山下がゲイとは……。思いも寄らなかった。
二日後、俺が退院して出勤してみると山下はいなかった。俺は班長になぜ、山下がいないのか訊いてみた。すると、
「辞めた」
「え! マジっすか!」
「マジだよ。理由はしらんがな」
就業時間を終え、帰宅してすぐに電話をかけた。でも、なかなか繋がらない。どうしたのだろう。そのまま留守番電話サービスに繋がった。少ししてメールがきた。相手は、山下修からだ。何で電話をして来ないんだ。と思いながらメールを開いた。
<こんばんは。さっきは電話に出なくてごめんね。気まずくてさ。昨日フラれちゃったから>
そんな事、気にしなくていいのに、と思ったが言わなかった。
<何で仕事辞めたんだ?>
<……それは察してよ……。そこまで言わせないで>
<もしかして、俺にフラれて気まずいから辞めたのか?>
それ以降、メールは来なかった。
まあ、仕方がない。ゲイには興味がないから。
たまにカラオケに行きたくなった。同級生の柊達也を誘ってみよう。今は夜9時頃。電話をかけた。3~4回呼び出し音が鳴り、繋がった。
「もしもし、達也か」
『ああ、オレだ。オレオレ詐欺』
「下らんギャグは言わなくて良い!」
『どうしたんだよ』
「今からカラオケに行かないか? 迎えに行くから。時子ちゃんもいるなら一緒にどうだ?」
『ちょっと待ってくれ、訊いてみる』
彼女の湯浅時子ちゃんもきているんだなと思った。
『時子、行くってよ。オレも行ってもいいぞ』
「呑んでるんだろ?」
『ああ、勿論だ。晩酌しないと明日に繋がらんからな』
「そうか」
俺は苦笑いを浮かべた
「じゃあ、支度したら行くわ」
『おう、オレらも用意するから30分くらいしてから来てくれ』
「わかった!」
俺は煙草に火を点けた。思いっきり吸い込んで吐いた。旨い。ゆっくり根本まで吸った。流石に根本は辛い。
さて、俺もシャワー浴びるか。夏だから暑い。汗をかいて臭かったら困る。
数年前から夏が異常に暑い。異常気象というやつかな。冬は冬で雪も多いし気温も異常に低い。最高気温が零下だ。まあ、北海道はそういうものかもしれないが。
シャワーを浴び終え、ブルーのTシャツを着て茶色のハーフパンツを履いた。レモンスカッシュの香水を少し振りかけた。良い匂いだ。
今は午後9時30分頃なのでそろそろ行くか。財布、煙草、スマホ、鍵を持参し、部屋を出た。
ブルーの乗用車の運転席に乗り、俺も彼女欲しいなぁと思いながら車を発車させた。同級生の達也が羨ましい。結婚願望はあるのだろうか。会った時に訊いてみよう。達也も時子さんも良い奴だから、幸せになって欲しい。後はお互いの気持ち次第だ。
10分くらい車を走らせ、達也のアパートに到着した。奴も車は持っている。黒い軽自動車だ。先月、新車で買ったらしい。達也は新車担当の営業マンだ。そこで買ったらしい。彼はとにかく車と酒が好きな男だ。
達也の車の隣に俺の車を駐車した。車から降りてアパートのチャイムを鳴らした。
ドタバタと足音が聴こえた。達也が歩く音だろう。その音はどんどん近付いてきて、玄関で止まった。そして、
「多田か?」
と聞えた。
「ああ。俺だ」
ドアの鍵を開ける音が聞こえた。
「よう! 久しぶり~!」
元気そうな達也。
「オスッ! 久しぶりだな」
俺も同じように言った。
達也は言った。
「少し上がってくか? それともすぐ行くか?」
「すぐ行くか」
「わかった、時子、すぐ行くぞ」
「はーい」
部屋の奥から彼女の声が聞えた。素直な感じがする。俺達3人は外に出て、俺の愛車に乗った。助手席には達也が乗り、後部座席には時子ちゃんが乗った。
「前に行ったとこでいいだろ?」
「ああ、いいよ。それにしてもカラオケ久しぶりだわ。時子はオレを置いて友達とカラオケに行っちゃうけどな」
達也はそう言った。すると時子ちゃんは、
「その言い方は私が悪いみたいな感じがして何か嫌だな」
と表情が暗くなった。
「だって、ホントのことだろ」
「そうだけど……」
険悪な雰囲気になりそうだったので俺が割って入った。
「まあ、いいじゃないか。今日は俺と行くんだから良いだろ」
「そうだな、時子、ごめん!」
「別に良いけどさ」
5~6分で目的地に着き、建物の隣に俺の車を停めた。それにしても建物の中に電気が点いていない。休みなのだろうか。入り口のガラス扉に貼り紙がはってあった。それを読んでみるとどうやら店を畳んだらしい。マジか! 2人にも見せた。
「あら! そうなのか。じゃあ、別のカラオケボックスに行くか」
と達也は言った。
「そうだな。確か、駅前にもあったよな」
時子さんは、
「うん、あるよ」
と言った。
再度、俺の車に乗り駅前に向かった。あまり人が歩いていない。田舎だから仕方ないけれど。ここのカラオケボックスの駐車場は道路を挟んだところにある。駐車場からみても灯りが点いている。店は営業しているようだ。良かった、ここもやっていなかったらどうしようかと思った。
横断歩道はあって信号は赤だが、3人で無視して渡った。この時間でも警察はパトロールしている時があるから気をつけないと。
でも、まあ、大して気にしてない。周りさえ見ていれば大丈夫。道路を渡り切って店の入り口でお客とぶつかりそうになった。その時、声をかけられた。
「おい!」
俺はそいつの顔を睨み付けた。
「なんだよ!」
「邪魔なんだよ!」
「それは俺も同じだ!」
そいつは酔っぱらっているようだ。俺の胸ぐらを掴んだ。頭にきた俺もそいつの胸ぐらを掴み、一触即発の状態になった。
「何だ、貴様!」
俺は怒鳴った。達也は俺に言った。
「おい、多田。やめとけって」
「だって、こいつが先に絡んできたんだぞ!」
相手は金髪でひょろりと痩せている。
「何だ、てめえ! やんのか!」
そいつも怒鳴った。時子ちゃんも、
「多田さん、やめて!」
俺は、
「畜生!」
と言って相手をぶん投げた。体型は圧倒的に俺の方がでかい。だから、負ける気はしない。
相手は転びそうになっていた。
「仲間に免じてやめといてやるよ!」
俺がそう言うと、
「ケッ! クソが!」
と言いながらそいつはケラケラと笑っていた。ムカつく笑い方だ。チッ! と俺は舌打ちした。
「早く俺達の前から立ち去れ! さもないと本当にボコボコにするぞ!」
相手は、
「おー、こわいこわい。お兄さんたち、またね。ははー!」
と言ってフラフラしながら去って行った。今の奴はいくつくらいだろう? 俺らよりは年上だ。
「せっかく遊びに来たのに胸糞悪い!」
俺は言った。
「多田、よく我慢したな」
達也は言い、
「喧嘩になるんじゃないかと思って怖かった」
時子ちゃんはそう言った。
「達也と時子ちゃんがいなかったら、完全に喧嘩になってたわ。負けるわけないけど」
「まあ、気分を変えて歌うぞー!」
達也がそう言うので、俺もそうかと思い、
「おーう!」
叫んだ。時子ちゃんは笑顔になった。
受付で時子ちゃんは会員カードを提示し、プラスチックのカゴに入った伝票を持ちカラオケルームに向かった。3時間歌うことにした。
3人で熱唱した。俺はスッキリした。達也や時子ちゃんもきっとスッキリしただろう。
「来て良かったな!」
俺がそう言うと、
「そうだな、最初行ったカラオケボックスが潰れていたからどうなるかと思ったけれどな」
達也は笑みを浮かべながら言った。
「そうね、カラオケ行けないかと思っちゃった」
時子ちゃんはそう言った。
「でも、結果的に来れて良かった!」
俺はしみじみと言った。
「さあ、帰るか。明日からまた仕事だし。達也は火曜日が休みか?」
俺は彼に訊いた。
「そうだ、毎週火曜日が定休日だ。ディーラーはどこも火曜日じゃないかな、多分だけど」
「そうか、時子ちゃんは今どんな仕事をしてるの?」
俺は彼女に質問した。
「あ、多田さん、知らなかったっけ。私は、達也と同じ会社の事務をしているよ。達也の紹介で入れてもらったの」
「へー! そうだったんだ。それは知らなかった」
俺達は歩きながらそんな話しをしていた。今の時刻は午前1時過ぎ。帰って寝ないと明日の朝、寝坊してしまう。俺は今、一人暮らしだ。だから、誰も起こしてくれない。彼女でもいれば起こしてもらうったって。なかなか自分の思った通りにいかない。まあ、世の中そんなものだろう。また、明日から頑張る!
中学生の頃、俺と知り合い仲良くなった竹田信二。久しく会っていない。たしか奴は俺より2つ年下なはず。だから33歳かな。結婚したかな。もしかしたら子どももいるかもしれない。今は仕事を終えて俺は部屋にいる。竹田に電話してみるか。5~6回呼び出し音が鳴り、繋がった。
「もしもし、竹田か?」
『もしもし、多田さん? 久しぶりっす」
「何してた?」
『仕事から帰ってきてシャワーから浴びたとこっす』
「そうか、これから暇か?」
『これからっすか? あー、これから彼女が来るんすよ』
「そうなのか、彼女いるんだな。俺にも誰か紹介してくれよ」
『おれの彼女から紹介してもらいますか?』
「いいのか? 今日会うんだろ? 俺がいたら邪魔じゃん」
『彼女が来たら訊いてみますよ』
「わかった。よろしく」
『後でメールしますよ』
「電話にしてくれないか? メールをちまちま打つのは苦手なんだ」
『わかりました。じゃあ、電話で』
約3時間半後。竹田から電話がきた。ようやくきたか。イライラさせやがって。
「もしもし」
『もしもし、遅くなりました』
「ほんとだよ、何してた?」
『彼女と話してましたよ。紹介の話しです』
「ああ、そうか。どうなった?」
『それなんだけど、おれの彼女と多田さんは初対面じゃないすか。それで彼女が言うには、多田さんのことをもっとよく知ってから紹介したいと言ってました』
「そうか、まあ仕方ないわな。なんせ、初対面だから」
『うん、すみませんがまたその内』
「ああ、わかったよ」
そう言って電話を切った。
若干、イラっとした。頭ではわかっているけど、気持ちがそぐわない。でも、仕方ないと思うしかない。
これから俺の人生はどうなるのだろう。幸せになれるのか。でも、俺にとっての幸せとは好きな女と一緒になることだと思う。それができていないのだから現状は幸せとは言えない。なんとなく寂しいし、不安だ。俺はもう35だ。あと5年で初老。嫌になってくる。見合いや、結婚相談所の世話にはなりたくない。紹介ならOK。だから竹田にお願いしたが上手くいかなかった。俺は生き急いでいるのだろうか。いや、そんなことはないと思う。いずれ出逢うであろう結婚相手を期待して頑張って生きていこうと思う。
俺は気になっていることを達也に電話で訊いた。数回、呼び出し音が鳴り、繋がった。
「もしもし、達也?」
『うん、どうした?』
「ちょっと訊きたいことがあって電話したんだ。達也は時子ちゃんと結婚する気はあるのか?」
『うー……ん。はっきり言ってない。1人がいい』
「そうなのか!」
俺は驚いた。てっきり結婚願望はあるのかと思っていたから。
「時子ちゃんはどうなんだ?」
『どうなんだろうな。前にちらっとそういう話しをしたけど、はぐらかしたのさ。何だか結婚したいみたいな口ぶりだったな』
「そうなのか、結婚願望がある彼女がいるのにしないなんて勿体ない」
『まあ、これは俺と時子の問題だから。下手に介入しないでくれ』
「そうか、悪い」
俺は苦笑いを浮かべた。俺だったら結婚するのにな。何て勿体ない話だ。俺は何としてでも自力で結婚相手を見付けて結婚してやる! 一生独身なんて寂しすぎる。そういう思いが達也の話を聞いて強くなった。
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