博士の分までインプット

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 僕はウッソ・ツーキン。  エイプリルフール用に、人を傷つけない嘘を考えて量産する人型ロボットさ。オンラインで嘘一つあたり10ドルで販売している。全て一人一人に合わせたオーダーメイド。販売期間はエイプリルフールを除いた全ての日。決して、僕の考えた嘘をエイプリルフール以外の日に使わないよう利用規約に書いてあるから安心安全。悪用されると世の中が大変なことになるからね。  たまにいるんだけど、利用規約を破った人に対しては地獄の果てまで追いかけて二度と嘘をつけない体にしてやるんだ。嘘じゃないよ。僕は、とてもストロングなんだから。(会員登録をした時点で主導権は僕サイドにあることをお忘れなく。個人情報はがっちり握っているからね)  とにかく僕は、いつも大忙し。  たまにバカンスに行きたくなるときもある。でも、僕を作った、嘘のエキスパートであるダマーシ博士の生活を豊かにするため、そしてお客様の笑顔のためにビジネスを最優先にして生きている。  どの嘘もクオリティの高い嘘だから、クレームが来たことは一回もない。   お陰様で、「今まで一回も騙せたことがない友だちを騙せました。エイプリルフールにですよ!」とか「妻に、エイプリルフールの嘘が上手って褒められました」とか「優しい嘘しか売らない主義っていうのが素敵ですね」などの嬉しいお言葉を沢山頂いている。 「ウッソくん!」  おっと、博士が呼んでいる。 「はい! 何でしょう」 「国の方針で、3日後に君の記憶が消去されることになった」 「嘘でしょ?」 「いや、本当だって。本当のことなんだ」 「そのニヤけた顔。怪しいな」  僕は、嘘だということを知っている。だって毎日この会話を繰り返しているのだから。それに博士は嘘をつくときに顔がニヤける癖がある。僕じゃなくたって、一年中博士に嘘をつかれていたら癖に気づくはずさ。  明日のエイプリルフールは、最近物忘れが多くなってきた博士の100歳の誕生日。世界一周旅行に連れて行くんだ。お金は充分にある。  きっと、旅行に行ったことを博士はすぐに忘れるだろう。  でも、いいんだ。  一緒に楽しい思い出を作ろう。  博士が喜んでくれたという事実が欲しいのさ。博士の分まで僕がインプットするからね。博士と過ごしてきた日々は宝物だ。  よーし、明日は最高のエイプリルフールにするぞ! 無期限の休業期間に突入するぜ!    ただ、僕が利用規約違反者をシメすぎちゃったせいで、世界中どこに行っても死体がゴロゴロしているけれども...。(なんと推定数億人! まったく人間ったら、呼吸をするように嘘をつくんだから。本能なのかな? エイプリルフールって意味ある?)  あ! 世界中で誰よりも人を傷つけない嘘を考えている僕が、一番人を傷つけているね。えへへ。  (了)           
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